【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第113条【使用権・住居権の譲渡、賃貸の禁止】

使用権及ヒ住居権ハ之ヲ譲渡シ又ハ賃貸スルコトヲ得ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

420 使用権と住居権は一種の用益権です。用益権は第68条によりこれを譲渡し、賃貸することができますので、使用権と住居権もまたこれを譲渡し、賃貸することができるとも考えられます。しかし、本条では譲渡と賃貸を禁じています。これはどのような理由によるものでしょうか。

 ローマ法では、使用権はその物を使用するにとどまるとされていたので、使用者は天然果実法定果実を収取する権利を有さず、ただその物を自己の用に供することができるにすぎません。この権利を賃貸するというのは、法定果実を収取するということにほかなりません。また、これを譲渡することは、定期に果実を収取するのに代えて一時的にこれを収取することと同じで、いずれもこの権利の性質を変ずるものなので、ローマ法では賃貸と譲渡を禁じていました。

 日本民法の規定は、使用権と住居権を制限的用益権とし、使用者はその物について純然たる使用をするほか、ある程度は天然果実法定果実を収取することができるものとしました。既に果実を収取することを認めているので、用益権と同じくこれを賃貸することも譲渡することも使用者の自由だとするしかありません。ローマ法がこれを禁じたのは禁止すべき理由があるので禁止したわけですが、日本民法ではこれを禁止する理由はほとんどありません。

 そのため、日本民法が譲渡・賃貸を禁止するのは、使用権と住居権の性質に照らしてこれを禁止しなければならないので禁止したというわけではありません。では、その理由は何なのでしょうか。この権利の譲渡・賃貸を許すと、この権利の行使の程度を定めなければなりません。その譲受人・賃借人の需用の程度とすると、使用者の需用の程度と同じではなかったり、その一方の需用が他方の需用の倍となったりして、それにより所有者に大損害が生じる可能性があります。その程度を譲渡人・賃貸人である使用者の需用の程度に限定すると、使用者の需用は必ずしも一定しませんし、その家族の増減、地位の高下により、たちまち需用に影響が及ぶので、その需用の増減を知ることは非常に困難です。そのため、所有者と譲受人・賃借人との間に紛争が絶えなくなるおそれがあります。そこで、本条でこの権利を譲渡・賃貸することを禁じたのです。

 

421 第68条では、用益物が抵当権の目的となるべきものである場合には、その権利を抵当権の目的とすることができると規定しています。そのため、使用物が土地・建物で、抵当権の目的とすべきものである場合には、使用権・住居権も抵当権の目的とすることができるのでしょうか。本条は譲渡・賃貸の2つを特に禁止しているにすぎないので、この権利を抵当権の目的としても差し支えないとも考えられます。しかし、抵当権は債権弁済の担保であり、万一その弁済をしない場合には抵当物を差し押さえ、これを競売に付すことになります。競売は強制譲渡にほかならないので、本条が譲渡を禁止している以上は、この強制譲渡も禁止しなければなりません。これを禁止する以上は、その結果を生ずべき原因つまり抵当権の目的とすることをも禁止しなければなりません。そのため、本条には明文はありませんが、使用権・住居権はともに抵当権の目的とすることができないものと解釈しなければなりません。

*1:使用権及び住居権は、これを譲渡し、又は賃貸することができない。