【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第119条【賃貸借の期間等】

1 法律上又ハ裁判上ノ管理人ハ其管理スル物ヲ賃貸スルコトヲ得*1

 

2 然レトモ管理人カ期間ニ付キ特別ノ委任ヲ受ケスシテ賃貸スルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス

第一 獣畜其他ノ動産ニ付テハ一个年

第二 居宅、店舗其他ノ建物ニ付テハ三个年

第三 耕地、池沼其他土地ノ部分ニ付テハ五个年

第四 牧場、樹林ニ付テハ十个年*2

 

【現行民法典対応規定】

602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。

一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年

二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年

三 建物の賃貸借 3年

四 動産の賃貸借 6箇月

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

 本条は、賃貸借契約はその物に所有権を有する者だけでなく、法律上・裁判上の管理人もこれを締結することができること、そしてその賃貸の期間を規定するものです。

 「法律上の管理人」とは、未成年者の父(人事編第153条)・母(同第157条)・後見人(同第186条)、禁治産者の後見人(同第224条第226条)、刑事上の禁治産者の後見人(同第237条)、失踪者の総理代理人(同第270条)、夫(財産取得編第428条)など、法律上ある他人の財産を管理すべき責任を負う者をいいます。

 「裁判上の管理人」とは、相続人のいない相続財産の管理人(財産取得編第343条)、瘋癩者の財産仮管理人(人事編第238条)、失踪者の財産管理人(同第271条)、破産管財人(商法第1008条)のように、裁判所から特に命じられてある他人の在案を管理させる者をいいます。争論の目的物について裁判所から保管人を命じられることもあり(財産取得編第223条)、この保管人もまた「裁判上の管理人」です。

 以上に例示した法律上・裁判上の管理人は、ただその財産を管理すべき者で、これを処分する権能を有しません。そのため、法律はその財産を賃貸し、物権を設定することができようにしています。これは一部の処分権を与えるもので、管理の範囲外といえないものでもありません。しかし、賃貸借を一面から見れば所有権の処分の1つには違いありませんが、他面から見ればその実は管理行為の1つにすぎません。ここに土地・建物があるとして、その管理人はただこれを看守し、他人の侵害を防止することだけをその任務とするならば、自らその土地を耕すことができないので、これを賃貸して賃貸借を生じさせ、建物もまた賃貸して果実を生じさせる必要が出てきます。消極的または積極的に第一に所有者の利益をはかり、それではじめてその管理を全うしたというべきでしょう。これを国家経済から見れば、生ずべき果実を生じさせず、空しく荒蕪朽廃に委ねるのは非常に不利益です。一方では所有者の利益のため、他方では国家経済の利益のために管理人がその管理行為として賃貸をすることができる旨が定められているわけです。

 しかし、管理人が賃貸をするのは、もともと所有者の利益のためにすべきものなので、これにより所有者を害するようなことはすべきではありません。その期間が20年、30年の長きに及ぶ場合には、所有者はその間権利を拘束され、大いに利益を害されるのは必然です。このように多年にわたる賃貸を管理行為と見るべきではないでしょう。そのため、法律は本条でその最長期間を定め、動産については1年、建物については3年、普通の土地については5年、牧場・樹林については10年を超えることができないと規定し、これにより所有者が害を受けることないようにしています。

 この期間制限については、その物の性質によってこのような区別がなされています。牧場・樹林は、今年畜類を放ったり樹木を植えたりしても、翌年その収益を得ることは困難です。少なくとも5、6年は待たなければなりません。普通の土地はこれとは異なり、今年施した肥料が1、2年で効果を表すことはそう難しいことではありません。建物は1、2年を期限としても賃借人はいるでしょう。動産に至っては数か月という短い期間でもこれを借りようとする者はいるはずです。一切の動産・不動産すべてその賃貸の期限を短縮すれば、おそらく賃借人を得ることは難しくなるでしょう。所有者の利益のためにこの管理行為を行うことを許しても、実際にこれを行うことができない地位に置いてしまうと、法律が賃貸を認めた意味はなくなってしまいます。これが、その物の性質によって所有者・賃借人の利益が適切なものとなる期間の最上限を規定した理由です。

 管理人が賃貸をするについて特別の委任を受けていない場合には、本条が明言するように、必ず以上の期限を遵守し、1日たりともこれを過ぎることができませんが、特別の委任を受けた場合には、その委任の権限内で賃貸の期間を伸長することができます。人事編第194条によれば、本条の期間を超える賃貸をするに当たっては、後見人は親族会の許可を得なければなりません。つまり、親族会の許可があれば、20年、30年にわたる賃貸をすることができます。

*1:法律上又は裁判上の管理人は、その管理する物を賃貸することができる。

*2:管理人が期間について特別の委任を受けずに賃貸をする場合には、次の各号に掲げる賃貸は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。

一 獣畜その他の動産 1年

二 居宅、店舗その他の建物 3年

三 耕地、池沼その他土地の部分 5年

四 牧場、樹林 10年