【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第120条【賃貸借の更新】

1 管理人ハ前条ニ記載シタル賃貸物ノ区別ニ従ヒ現期間ノ満了ニ先タツ一个月、三个月、六个月又ハ一个年内ニ非サレハ同一ノ期間ヲ以テ賃貸借ヲ更新スルコトヲ得ス*1

 

2 然レトモ右ノ時期ニ先タチ為シタル更新ハ新期間ノ始マリシ後尚ホ管理人ノ委任ノ止マサリシトキハ無効ナラス*2

 

【現行民法典対応規定】

本条1項

603条 前条に定める期間は、更新することができる。ただし、その期間満了前、土地については1年以内、建物については3箇月以内、動産については1箇月以内に、その更新をしなければならない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

 前条では管理人が約することができる賃貸の期間について制限を設けましたが、管理人が第1の期間を約すると直ちに第2の契約を締結し、さらに第3の契約を締結した場合のように、数次にわたって賃貸借を更新することができるとすれば、前条の規定は空文化し、容易にこれに反することができるので、法律が所有者の権利を保護しようとした目的を達することができなくなってしまいます。そこで、本条を設けて、賃貸借の更新について遵守すべき条件を定めています。

 その条件とは、現在の期間が満了する前の一定の期間内でなければ更新することができないとするもので、その期間は物の性質によって以下のように区別されています。

  動産の賃貸借を更新するには1か月内。

  建物の賃貸借を更新するには3か月内。

  普通の土地の賃貸借を更新するには6か月内。

  牧場・樹林の賃貸借を更新するには1年内。

 このように現在の期間の満了前に更新すべきと定めたのは、賃借人に便宜を図るためにすぎません。現在の期間が満了する時でなければ更新することができないとすれば、賃借人は管理人の意思を知らずに誤って更新するだろうと信じていたところ、管理人はこれを更新しなかったために突然その権利が消滅し、路頭に迷うこともあるでしょう。また、管理人もこれを更新しようとしたところ前賃借人が承諾しなければ、さらに賃借人を探さなければならなくなります。その間はむなしくその物を捨て置くことになり、これにより果実を生じさせることができなくなってしまいます。これは所有者のためにも不利です。そこで、法律は主として賃借人のため、傍らでは所有者のために、期間の満了前に更新すべきこととしたわけです。

 

10 前述の期間内に賃貸借を更新しても、前の賃貸借はこれにより消滅することはなく、その期間が満了するまで存在することは当然です。そのため、同一の物に2個の賃借権が設定されたものとなります。その賃借人が前後で同じ場合もそうです。その2個の賃借権が同時に行使されるべきではないので、後の賃借権は前の賃借権が消滅するまでその行使を停止されなければなりません。

 そのため、賃貸借の更新がなされた場合には、たとえ管理権が消滅しても、例えば未成年者が成年に達して後見を免れるに至っても、後見人がした前の賃貸借は当然のこと、その更新された賃貸借もともにこれを遵守しなければなりません。場合によっては前条に規定した機関に前述の時間を加えた年月の間、例えば牧場・樹林については11年間の長きにわたって賃借権を設定しておかざるをえないこともあるでしょう。

 

11 管理人が本条第1項の規定を守らずその法定の時期に先行して更新を行った場合には、これを無効とすべきでしょうか。第2項はこの場合を想定して、新たな期間が開始した後もなお管理人の委任が終了しない場合には無効とはならないとしています。

 そのため、例えば10年の約束で樹林を賃貸し、その期間満了に先行すること2年前にさらに10年の賃貸を約した場合に、前の賃貸借が消滅して新たな期間が開始したのにその所有者が未成年で後見人がまだ管理権を有しているときは、たとえその更新が第1項に反するものでもこれを有効とします。そのため、新たな期間が開始した翌日に所有者が成年に達しても、その更新した賃貸借を遵守しなければなりません。その更新を有効としても、前条に規定した期間を超えることはなく、決して所有者の利益を害するおそれがないからです。これを無効とすれば、管理人は前の賃貸期限満了の1日前に有効に更新をすることができることになるので、更新をしたのだろうと推測するのが当然です。更新をすることにより所有者に利益があると認めるより2年前に更新をしているので、むなしく期間を経過させることなく前志を貫くために法定の時期のうちに更新をしたことは必然だからです。それをしないのは、以前に既にこれをしているからだということを認識すべきでしょう。これがこの違法な更新を無効としない理由です。

 これに対し、新たな期間の開始前に管理権が消滅した場合には、本項の規定の裏面から推測して、その更新を無効とせざるをえません。前の例で2年前に更新をして間もなく未成年者が成年に達した場合に、その更新された賃貸借を有効だとすれば、前の賃貸借は1年余のほか10年の賃貸借を合わせて11年余の義務を負わせることになります。法律による最長期の制限を超えることになるので、その更新を無効とするのは妥当です。

 

12 略(論説)

*1:管理人は、前条の賃貸物の区別に従い、現在の期間が満了する前1か月、3か月、6か月又は1年内でなければ、同一の期間をもって賃貸借を更新することができない。

*2:前項の規定にかかわらず、前項の時期より前になされた更新は、新たな期間が開始した後も管理人の委任が終了しないときは、無効とはならない。