【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第132条【賃料増減額請求等】

土地又ハ建物ヲ以テ主タル目的物ト為シタル賃貸借ニ於テ其現在ノ坪数カ契約ノ坪数ヨリ少ナク又ハ多キトキハ土地又ハ建物ノ売買ニ於ケルト同一ノ条件ニ従ヒテ借賃ノ増減又ハ契約ノ銷除ヲ為スコトヲ得*1

 

【現行民法典対応規定】

第563条 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

一 履行の追完が不能であるとき。

二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

四 前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

 

第564条 前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

 

第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

33 本条は、賃貸借の目的である土地・建物の現在の坪数が契約の坪数と異なる場合に、賃貸人・賃借人の権利・義務がどうなるかについて規定しています。

 土地・建物の賃貸借について当事者が契約を締結するに当たり、いちいち実地でその面積を丈量せず、従来1000坪の土地、100坪の建物と称したために、1000坪、100坪あると信じて契約を締結し、後日になって1000坪に足りず、100坪以上あることが発覚することはよくあることです。この場合には、その差異が実にわずかなものであれば、そこまで当事者の利害に関係はないでしょうが、その過不足が大きいときは、前の契約をそのまま維持することはできません。つまり、賃料の増減や契約の銷除を認めなければなりません。この坪数に誤りがあることは、賃貸借の場合に限らず、売買の場合にもまた生ずる可能性があります。しかも、法律は売買については財産取得編第48条以下に詳細な規定を置いているので、ここでも同一の規定を置けば重複し、無益なことになります。そこで、その規定をここに適用することにしたわけです。

 ここで、その売買に関する規定をこの賃貸借に適用し、その大要を示しておきます。

 ① 当事者がその契約に賃借物の全面積を明言し、各坪の賃料を指示した場合に、現在の面積に不足するときは、賃貸人は免責を担保しない旨を明言したときであっても、賃料減額の請求に応じなければなりません。これに対し、現在の面積を超過している場合には、賃借人は賃料補足の請求に応じなければなりません。減額・補足ともに、その面積の不足・超過の割合によるべきことは当然です。

 ② もし各坪の借賃を定めずに一度の賃料で賃貸借をしたところ、その面積に不足があった場合には、賃借人に悪意があるか、善意でも面積を担保したか、不足の坪数が20分の1以上であるときか、そのいずれかでなければ、賃料減少の請求に応じる必要はありません。超過の場合にはその超過が20分の1に及ぶときでなければ、賃借人は借賃補足の請求に応じる必要はありません。

 ③ 数個の不動産を1個の契約でその各個の面積を指示し、一度の賃料で賃貸借した場合には、甲の面積が超過し、乙の面積に不足があるときは、賃料に従って相殺します。この相殺の後もなお賃料20分の1の過不足がある場合には、割合で賃料を増加・減少しなければなりません。

 ④ 賃借人は代価減少の権利を有する場合には、その権利のほかなお損害賠償を請求する権利を有します。また、その約した面積がその用法に必要な場合、そして20分の1以上の賃料の補足を弁償することを要する場合には、契約の銷除をすることができます。

 ⑤ 以上の区別に従い、賃料の改正損害の賠償を請求する訴権、契約の銷除を請求する訴権は、1年以内に行使しなければなりません。この期間の経過は、賃借人にあっては契約の日より、賃借人にあっては引渡しの日より起算します。

 

34 略

*1:土地又は建物を主たる目的物とする賃貸借において、その現在の坪数が契約の坪数より少ないとき又は多いときは、土地又は建物の売買におけるのと同一の条件に従って賃料の増減又は契約の銷除をすることができる。