【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第140条【賃借物についての租税公課の負担】

1 賃借人ハ賃借物ニ直接ニ賦課セラルル通常及ヒ非常ノ租税其他ノ公課ヲ負担セス若シ租税法ニ依リテ賃借人ヨリ徴収スルコト有ルトキハ其借賃ヨリ之ヲ扣除シ又ハ賃貸人ヨリ賃借人ニ之ヲ償還ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス*1

 

2 然レトモ賃借人ノ築造シタル建物ニ賦課セラレ又ハ賃借不動産ニ於テ賃借人ノ営ム商業若クハ工業ニ賦課セラルル租税其他ノ公課ハ賃借人之ヲ負担ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

48 第89条によれば、用益物に賦課された通常の租税公課は用益者がこれを負担し、非常の公課や租税は用益者がその元本の利息を負担するだけで、元本は常に虚有者の負担に属するものとされています。法律は多くの点で賃借権を用益権とほとんど同一のものとしていますが、本条では、賃借人は通常の租税公課はもちろんのこと、非常の租税公課についても、まったく負担しないものと規定しています。このようにこの2つの間に差異があるのはどのような理由に基づくものでしょうか。

 用益権は無償または有償で設定することができるものですが、多くは無償で設定されます。有償の場合は、実に1000、100あるうちの1つ、2つでしょう。用益者は毎年の収益を独占し、虚有者は何らの報償も受けないので、租税公課は用益者にその全部を負担させたり、その元本の利息を負担させたりするのが当然です。これに対し、賃貸借は有償契約で、賃貸人はその賃貸物から毎年収益を挙げる、つまり賃料を得ます。そのため、自らその物を直接に使用する場合と同じく、租税公課を負担するのが正当です。これがそのような差異がある理由です。

 賃借人もまたその賃借物について収益を挙げるので、これに租税公課を分担させてもよい、むしろ全部負担させてもよいともいえます。そのように考えるならば、所有者に雇用されて労務に服する者もまたその物から収益つまり給料や賃金を得るので、これに租税公課を負担させてもよいということになってしまいます。賃借人が賃借する土地を耕作して収益を挙げるのは、雇用された者が賃金を得て、雇用者の土地を耕作するのとその実はほとんど同じです。そちらには租税公課を負担させず、こちらにはこれを負担させるとすれば、その幸不幸はどうでしょうか。それもこれもほとんど同じなので、法律は同じようにこれを待遇しなければなりません。そのため、私は上記の説には賛同できません。

 

49 前述のように、賃借人は、通常・非常、一般・地方を問わず、すべての租税公課を負担しないと規定されていますが、租税法で租税徴収の便宜から賃借人よりこれを徴収することとされた場合には、その特別の規則に従い、賃借人はこれを支払わなければなりません。しかし、賃借人にはもともと負担の義務がないので、賃借人がこれを支払うのは、賃貸人に代わって支払うということにほかなりません。そのため、その貸借から控除することができますし、特に償還を賃貸人に請求することもできます。

 以上の規定は、公の秩序や善良の風俗に関するものではありません。そのため、当事者は合意でこの規定に反する合意をすることができます。つまり、租税公課の全部を賃借人が負担することとしても、その通常のものだけを賃借人に負担させることとしても、平等に分担することとしてもかまいません。

 しかし、この合意は当事者の間で有効なだけで、これを第三者に対抗することはできません。そのため、賃借人に負担させる合意がある場合にも、政府は賃貸人より租税公課を徴収することができます。賃貸人にはこれを拒む権利はなく、ただその徴収に応じた上で、賃借人に対して償還を請求することができるだけです。

 

50 第133条に規定するように、賃借人は現在の建物に変更を加えなければ、適宜に建物を築造することができます。この賃借人の築造した建物に賦課される租税公課は、賃借人がこれを負担しなければなりません。賃借人はその建物につき別に賃料を支払わずに収益を挙げ、賃貸人はそのために報償を受けることがないからです。

 また、賃借不動産で賃借人が営む商業や工業に賦課される租税公課は、賃借物に賦課されるものではなく、営業者自身に賦課されるものです。賃貸人も賃借人の営業のために報償を受けることがないので、これを賃貸人に負担させるべき論理はありません。そのため、この租税公課はまた賃借人がこれを負担しなければなりません。

*1:賃借人は、賃借物に直接に賦課される通常及び非常の租税その他の公課を負担しない。租税法によって、賃借人より徴収することがあるときは、その賃料よりこれを控除し、又は賃貸人より賃借人にこれを償還する。ただし、反対の合意があるときは、この限りでない。

*2:前項の規定にかかわらず、賃借人が築造した建物に賦課され、又は賃借不動産において賃借人の営む商業若しくは工業に賦課される租税その他の公課は、賃借人がこれを負担する。