【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第148条【家具が付属している建物の賃貸借の終了】

1 家具ノ付キタル建物ノ全部又ハ一分ノ賃貸借ニシテ其期間ヲ明示セス其借賃ヲ一年、一月又ハ一日ヲ以テ定メタルモノハ一年、一月又ハ一日ノ間賃貸借ヲ為シタリト推定ス但前条ニ記載シタル黙示ノ更新ヲ妨ケス*1

 

2 動産ノミヲ以テ目的ト為シタル賃貸借ニ付テモ亦同シ*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

66 本条は、ある物の賃貸借について当事者がその期間を定めない場合のために、「法律上の推定」をしたものです。

 そもそも、人の建物を賃借し、永くこれに住居しようとする者は、自らその家具を備え付けるのが通例ですが、家具の付いた建物を賃借する者、特にその建物の一室を賃借するような者は、永くこれに住居する意思はありません。商業や訴訟のために一時的に都会に拠点を置いたり、保養のために鉱泉宿の一室を賃借したりするようなことは、決して永住の意思によるものではないことは明らかです。そこで、その賃貸借について当事者があらかじめ期間を定めずとも、その期間は自然と存在するものとしなければなりません。そのため、当事者がその賃料を「1年間、若干円」と定めたとすると、この意味は少なくとも1年間は賃借することにあると推知すべきでしょう。わずか数日の賃借をするのに1年間の賃料を定める必要はありませんし、決してそのような愚かなことをすることもないだろうからです。このほか、月・週・日で賃料を定めたものも、同じくその賃料の標準となっている期間は賃借をする意思であることは推知することができます。これが本条の推定が生じる理由です。

 動産だけを目的とした賃借についても、同じように推定をするのが相当です。例えば、乗馬を賃借するのに10日間で賃料5円と約した場合には、これは10日間賃借する意思によるもので、1日や2日の賃借ではないことを推知するには十分です。そのため、この場合でも、その賃料の標準となっている時期を賃貸借の期間と推定します。

法律は以上述べたように推定しますが、この推定は「軽易な推定」にすぎません。そのため、当事者は反証を挙げてこの推定を破ることができます。例えば、鉱泉宿のような場合には、その一室を賃貸するのに1週日間若干円とするのが通例なので、浴客が1週日間何円の賃料として約したとしても、1週日の賃貸借だとみなすべきではありません。暑さが去るまで、あるいは疾病が癒えるまで賃借する意思だということを証明した場合には、この推定は当然これによって破られることになります。

 

67 本条の推定期間を経過してもなお賃借人が収益し、賃貸人がこれを知って異議を申し立てない場合には、黙示の更新があったものとします。前にも述べたように、反証がない以上、当事者の意思はこの期間で賃貸借をしたもので、暗黙に期間の定めがあったものとみなさざるをえません。既に黙示の期間があるのなら、明示の期間の場合とその取扱いを異にすべき理由はないからです。

*1:家具が付属する建物の全部又は一部の賃貸借において、その期間を明示せずにその賃料を1年、1月又は1日と定めたときは、1年、1月又は1日の間賃貸借をしたものと推定する。ただし、前条に定める黙示の更新を妨げない。

*2:動産のみを目的とした賃貸借についても、前項と同様とする。