【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第33条【所有権の制限③―公益のために設定した地役】

物料ノ採掘、道路ノ画線、樹木ノ採伐、水其他ノ物ノ収取ニ付キ一般又ハ一地方ノ公益ノ為メ設ケタル地役ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

166 公益工事をするに当たり、例えば砂・土その他の石材を必要とすることがあります。これを遠隔の地から運送するのと、近隣の土地から採掘するのとでは、費用が大きく変わってきます。このような場合に、その工事が公益のためにするものであるときは、近隣の土地で砂・土その他石材の類を採掘することができます。本条ではこれを「物料の採掘」といいます。
 「道路の画線」とは、曲がっている道路をまっすぐにしたり、幅を広げたりする工事をいいます。この種の工事を行うには、路傍の土地や家屋を収用しなければなりません。また、この工事の設計が既に定まった場合には、路傍の家屋で収用すべきものの修築を禁じることがあります。これらはすべて所有権に制限を与えるものです。
 「樹木の伐採」とは、例えば、海軍の用材のためには良材を国中に培養・保存することが必要で、人民の所有に属する樹林の中にも海軍用材に適用なものがあれば、これを勝手に伐採することを認めません。時を待ってこれを官が買収することもあります。また、水源を存養したり、土砂の流出を防止したりするため、民有山林の伐採を禁ずることもあります。
 「水の収取」とは、一村一市の飲用水や耕作用の水を他の土地から引用する場合には、水源の所有者はその水を譲渡しなければならないということです。
 以上、いくつかの場合はこれを「土地の責務」といいます。土地が公益に対する義務を負っているといえるからです。そのため、これを「土地の公益責務」といいます。
 本条では4つの場合だけを掲げています。このほかにもこの種の責務はたくさんあります。例えば、鉱泉の近隣では勝手に土地を試掘することを禁じたり、運河に沿った土地に曳舟路を作るような場合です。

 

167 本条の中に掲げた事項は、動産・不動産の収用に属するものだったり、単に所有権の行使の制限だったりします。しかし、これらは常に必ず生じるもので、これを行うには手続もまた繁雑なものとなります。そのために毎回法律を制定する手間を避ける必要があります。また、その他の種々のこの類の責務についてもあらかじめ法律を制定する必要があります。そこで、これらの事項はすべて行政に属するとし、本条では行政法に規定することを明言したのです。

 道路の画線に関して、路傍の土地にある家屋の修繕を禁ずることは、第34条の中に含まれていますが、道路の画線についてはほかに土地を収用する必要があり、行政法でこれを定めるべきですから、特に本条にこれを掲げています。

*1:物料の採掘、道路の画線、樹木の採伐、水その他の物の収取について一般又は一地方の公益のため設定した地役は、行政法でこれを規定する。