【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第35条【所有権の制限⑤―鉱物の開坑等】

鉱物ノ所有権及ヒ其試掘若クハ開坑ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

170 所有権は自由なものなので、所有者はその土地を開削・採掘する権利を有するのを本則とします。しかし、鉱物の採掘は大いに社会の利害に関わるものです。そのため、これについては特別法があります。つまり、日本坑法です。この法律は明治6年第259号の布告で、その条文には今日の事情に適しないものもあります。そのため、早いうちに改正されることでしょう。

 日本坑法第2則では、「前条に掲記した物類(鉱物をいう)で日本国中で発見されたものはすべて日本政府の所有であり、政府のみがこれを採用する分義がある」としています。そのため、土地の表面は人民の所有に属するものでも、その下にある鉱物は政府の所有に属します。つまり、地下に及ぶ所有権には大いに制限があるわけです。

 鉱物を発見し、これを採掘しようとする者があれば、まず政府に願って試掘し、その後に開坑の願をし、土地の面積を定めて開坑の許可を得る必要があります。これを「借区」といいます。日本坑法第11則では、「借区は、通常15年間とする。その後の更新は新たに願い出なければならない。」と定めているので、鉱物の所有権は政府に属し、その開坑を認めても必ず制限があります。つまり、採掘権を賃貸しているにすぎないのです。

 

171 鉱物の採掘権と地表の所有権とはまったく別物です。そのため、採掘権を各別に処分することができます。また、開坑する者の多くは表面の土地を占有する必要があります。そのため、日本坑法は第22則では「借区人は区上における蔵庫、詰所、作事場、洗鉱所、溶鉱所、通路等その他坑業に必要な地面については、地主にあらかじめ償金を支払わなければならない。これを決することができなければ、鉱山寮又は地方官において正価を採決し、その土地を買い取らなければならない。」とされています(第22則は、所有権の徴収を定めたものでしょう。土地収用法が施行されている今日では権衡を得るために本則を修正する必要があるように思います。)。

 

172 このように、日本の制度では、国家が鉱物の所有権を有することとなっています。西洋にもまたこのような制度があります。現行日本坑法のこの主義は非常によいものだとみるべきです。また、その所有権を永く譲り渡さず、必ず期限を定め、最終的国家に還属するものとした主義もまた非常によいものです。この2つの主義は将来も変更されないことを望みます。鉱物だけでなく、現在国家が所有する他のある種の財産についてもまたこの主義が採用されることを願っています。

 

173 鉱物を国家の所有とし、特許でそれを開坑させる理由については、原案に説明があります。そこでは、鉱物の所有権を土地の所有者に帰属させ、その開坑も土地の所有者の自由に任せると、2つの弊害があるとされています。第1は、土地の所有者が資本を有しないのは普通なので、鉱物があってもこれを開坑することができず、国家の財貨を埋没させて無用なものとし、外国の財貨の輸入に頼らざるをえなくなります。第2に、そもそも鉱物を採掘するには広大な地面が必要となるのが普通です。地表を区分して多くの所有者があれば、その間に協議が調わずについに開坑することができないという状況にもなりえます。開坑のためには巨大な資本を必要とし、狭隘な区域で開坑しようとすればまず利益はないでしょう。結局開坑することはできないこととなります。

 以上、第31条から第35条は、すべて所有権の制限に関する事項を掲げています。要するに、第30条第2項に掲げた大綱に基づき、これらの数項目を設けたわけです。

*1:鉱物の所有権及びその試掘若しくは開坑については、特別法で定める。