【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第38条【共有物の処分等】

1 処分権ニ付テハ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾アルニ非サレハ其物ノ形様ヲ変スルコトヲ得ス又自己ノ持分外ニ物権ヲ付スルコトヲ得ス*1

 

2 共有者ノ一人其持分ヲ譲渡シタルトキハ譲受人ハ他ノ共有者ニ対シ譲渡人ニ代ハリ其地位ヲ有ス*2

 

【現行民法典対応規定】

本条1項

251条1項 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

187 本条は、所有権の種々の元素の中の処分権に関する規定です。

 共有の場合には、各共有者はその処分権を自由にすることができない場合があります。つまり、物の形態を変ずる処分です。そもそも物の形態を変更する処分は、その変更の大小にかかわらず、すべて各共有者の承諾が必要です。共有者の持分はすべて権利そのもので、無体物です。そのため、有体物である所有物の上に直接関係ある処分をすることができません。

 これに対して、各共有者はその共有権や抵当権その他の物権を譲渡することができます。しかし、他の共有者の権利を害しない限度ですることが必要です。そのため、その各自は他の共有者の承諾を得るのでなければ、共有地に地役を負担させる類のことをすることはできません。

 その抵当権は、分割により消滅することがあります。分割の効力は認定主義により既往に遡るからです(第14条参照)。

 賃借権は物権です。そのため、物の全部の賃貸は各人でこれをすることができないかのようです。本編第119条以下に管理者はある年限内において賃貸をすることができるという規定が置かれています。賃貸は日本民法によればこれを管理処分に属させているからです。

 二音民法では、各共有者は互いに代理委任をしたものとみなします。共有者が自己の持分外のものまで賃貸してもなお有効とするのは、その相互の代理者の資格によってするものと推定するからです。

 

188 共有者の1人がその持分を譲渡した場合には譲受人は譲渡人と同様の地位を占めるというのが、本条第2項の意味です。そもそも権利の譲渡を受けた者は、その譲り受けた権利以外の権利を有しないことはもちろんで、この原則は単に共有権の譲渡だけでなくすべての権利の譲渡についてもまたいえるところです。そのため、この第2項は純然たる蛇足のようなものです。

 本条第1項には、共有物の処分で形体を変更することに関して規定を掲げています。その譲渡もまた処分の一種です。共有者がこの種の処分をすることができるかどうかについてもまた規定しなければはっきりしません。そのため、第2項を設けてその譲渡をすることができるという意味を明示しています。しかし、この行文は、その主意を貫徹せず、単に譲渡人と譲受人との地位云々とあるため、蛇足の観があります。

*1:各共有者は、他の共有者の承諾がなければ、その物の形様を変ずることができない。自己の持分外に物権を設定するときも、同様とする。

*2:共有者の1人がその持分を譲渡したときは、譲受人は、他の共有者に対し、譲渡人に代わってその地位を有する。