【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第39条【共有物の分割請求】

1 各共有者ハ如何ナル合意アルモ常ニ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得然レトモ共有者ハ五个年ヲ超エサル定期ノ時間分割セサルヲ約スルコトヲ得*1

 

2 此合意ハ何時ニテモ之ヲ更新スルコトヲ得但其時間ハ亦五个年ヲ超ユルコトヲ得ス*2

 

3 右規定ハ数箇ノ所有地ニ共通ナル通路、井戸、籬壁、溝渠ノ互有ヨリ生スル共有権ニ之ヲ適用セス*3

 

【現行民法典対応規定】

本条1・2項

256条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。

本条3項

257条 前条の規定は、第229条に規定する共有物については、適用しない。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

189 そもそも物を数人で所有する場合には、所有権を数個に支分した場合のように、その収益に不便をきたし、その改良にとっては妨害となります。その全部を売却しようとしても協議が成立しにくく、その一部の持分だけを売却しようとしてもこれを買い求める者はなかなか現れないでしょうから、融通を阻害します。そのため、共有は社会の経済上害が多くして益の少ないものです。そのため、本条で各共有者がいつでも共有物の分割を請求する権利を認めています。たとえ何らかの合意があっても、この請求を妨げることはできません。物を永久に分割しないままにしておくことは社会の秩序を害するので、反対の合意をすることを禁じています。

 本条第1項では分割の原則が定められていますが、第2項に除外例を設け、5年間は分割しないとの規約をすることを認めています。物を分割するには現物でしなければならない場合がありますが、各共有者は現物の分割を拒む権利を有します(財産取得編第110条)。これらの場合には、その共有物を売却せざるをえません。これを売却するには時機に適不適があり、大いに価格の高低に関係します。強いて共有物を売却しようとすると、共有者が損失を受けることがあります。そのため、5年間の期限を定めて不分割を合意し、時機を待つことを認めています。

 永久または5年以上の不分割を合意した者がある場合には、その年期を5年に短縮してその契約を有効なものとします。

 5年の期限は常にこれを更新つまり年続させることができます。しかし、年続させてもまた必ず5年の期限を超えることは認められません。

 

190 各共有者が成年の能力者で、自身で分割に立ち会う場合、代理人を立ち会わせる場合には、共有物の分割は協議でこれをすることができます。これに反する場合には、裁判官の立会いによりこれを分割しなければなりません。財産取得編第111条を参照してください。

 各共有者が共有物を仮に分割して使用収益し数年を経ても、その分割請求権は失われません。

 分割請求権は直接に時効にかかるものではありません。そのため、物の不分割の状況が続く間は、必ず分割請求権が存在します。しかし、間接に時効で消滅することがあります。例えば、共有者の1人が共有物の全部を1人で所有者として30年以上占有した場合、各共有者が共有物を分割して各々自己の所有物としてこれを占有した場合、このいずれかの場合にはその所有権が時効により移転し、これにより分割請求権が消滅します。また、共有者の中の1人だけが共有物の一部を自己の物として占有し、時効によってこれを取得した場合には、その部分だけに対しては分割請求権を行使することができません。

 

191 特別共有とは、分割請求につき普通の規定に従わないものをいいます。つまり、本条の末項に掲げたものです。

 ある学者は、この種の共有を強制共有といいます。共有せざるをえないという意味です。

 隣接する数個の土地が数人の所有に属し、その共同の使用に必要な付属物がある場合があります。例えば、籬壁・溝渠・通路・中庭・井戸・厠・水溜の類です。この種の物はすべていわゆる「強要の共有物」で、その分割を請求することは認められません。

 「強要の共有」の多くは互有に属するものです。互有とは、かれこれを互いに所有するという意味で、共有の一種です。本編第249条以下にその規定が掲げられています。これについてはその条文のところで説明します。

*1:各共有者は、いかなる合意があるときであっても、常に共有物の分割を請求することができる。ただし、共有者は、5年を超えない期間は分割しないことを約することができる。

*2:前項ただし書の合意は、いつでも更新することができる。ただし、その期間は、5年を超えることができない。

*3:前2項の規定は、数個の所有地に共通する通路、井戸、籬壁、溝渠の互有より生ずる共有権には適用しない。