【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第40条【区分所有】

1 数人ニテ一家屋ヲ区分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ相互ノ権利及ヒ義務ハ左ノ如ク之ヲ規定ス*1

 

2 各所有者ハ離隔セル所有物ノ如クニ自己ノ持分ヲ処分スルコトヲ得*2

 

3 諸般ノ租税及ヒ建物並ニ其付属物ノ共用ノ部分ニ係ル大小修繕ハ各自ノ持分ノ価格ニ応シテ之ヲ負担ス*3

 

4 各自ハ己レニ属スル部分ニ係ル費用ヲ一人ニテ負担ス*4

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

192 変例共有は、本条に掲げられています。

 そもそも共有の権利は1つの物の上に数人の権利が集合するもので、各共有権を合わせた上ではその目的は特定物ですが、各自に分別した上ではその権利の目的は真の特定物ではありません(特定物については本編第16条で詳しく説明しました)。これが共有の本相です。そもそも共有と称するものは、共有者各自の有する部分は目的物の上でははっきりしません。ただその権利の価額についてだけ明らかです。しかし、本条に掲げる共有はそうではありません。各共有者の権利の目的物はすべて区分して特定しています。そのため、私はこれを「変例共有」と名付けています。実は真の共有ではなく、物を区分して各自がこれを各別に有するからです。

 本条は、フランス民法第664条を模倣したものと思われます。フランス民法は、数層の楼を構成する1個の家屋の各層が数人に分属する場合、例えば第1層はA、第2層はBに属するといったような場合を予想して定めています。そのため、その行文の中で「楼層が別異の人に属する」という語があります。日本民法には単に「数人で一家を区分し、各その一部分を所有する云々」と掲げています。そのため、上下数層を区分する場合、横側に区分する場合にも適用するという行文です。しかし、本条の精神はフランス民法のように上下数層の区分という意味であることは、説明書の中で明らかにされています。横側に区分した場合には共有ではなく、純然各別有となるため、本条はフランス民法と同一の精神であるとして、これを説明します。

 本条の場合には、その家屋の全部を指して共有とするわけではありません。その共有の名称を下すことができるものは、敷地・屋根・戸扉・階段・周囲の籬壁その他、井戸・下水道の類です。

 本条には、共有者の処分権と負担の義務とを規定し、第2項に処分権を掲げています。

 フランス民法を講ずる者の説に従えば、1個の建物を上下数層に分けて各別にこれを有するというのは、昔かの国の1、2州でそのような慣習があったようです。日本民法原案の説明の中にも将来このような場合があるかもしれないとの言及があります。本条のようなものは、日本ではほとんど実用のないものだからです。

 

193 共有者の各自が自分の持分を処分する行為で、例えばこれを譲渡し、抵当とすることができるというのは、本条の場合に限りません。すべて普通共有の場合にもまた同一です。特に本条に第2項を設けた趣旨は、共有者の各自はその持分を変更するのに他の共有者の承諾を得ることを要しないことを示すものです。これが普通共有と異なる点です。

 そのため、各共有者はその持分については房室の配置を変更し、その他すべての新工をすることができます。ただし、自己の持分を変更することにより他の共有者に害を加えるような工事は、もとよりこれをすることはできません。これはこの共有に固有のことではなく、普通の原則があるためです。

 最上層の階を有する者はその上にさらに1層を増築することができるかという問題があります。

 フランス民法にも日本民法にもこの場合に対する規定の明文はありません。参考のため「オーブリ」の説を挙げておきましょう。「最下層を有する者は故障を生じさせることができないが、それ以上の階層を有する者が故障を生じさせるのは理由がないわけではない。いずれの場合にも増築をするには下層に対して決して損害がないことを鑑定させることが必要である」。

 

194 負担の義務には2種類あります。共通負担・各別負担です。

 共通の負担義務は、第3項に述べるように、各自の持分の価格に応じてこれを分担します。

 租税は別に説明する必要はありません。その付属物の共有の部分とは、上に述べた屋根、戸扉の類で建物全体の用をなすものをいいます。その他各自の専担する費用もまた説明するまでもなく明らかです。

 家屋が焼失傾倒した場合、朽廃のために改築を要する場合は、各共有者は改築をする責任があるでしょうか。

 ある学者は「各自はその改築の責任を負わない。その敷地及び材料の分割を請求することができる」とします。この説に反対する論者がありますが、私は前説が妥当だと考えています。

*1:数人で1棟の家屋を区分し、それぞれその一部分を所有するときは、相互の権利及び義務は、次の各項の通りとする。

*2:各所有者は、離隔する所有物のように自己の持分を処分することができる。

*3:諸般の租税及び建物並びにその付属物の共用の部分についての大小修繕は、各自の持分の価格に応じて負担する。

*4:各所有者は、自己に属する部分についての費用を1人で負担する。