動産及ヒ不動産ノ所有権ノ取得及ヒ消滅ニ関スル時効ノ性質及ヒ効力ニ付テハ証拠編ノ規定ニ従フ*1
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
200 時効とは、前にも述べたように(第28条)、時を経過したことにより生ずる効果という意味です。
時効に関する詳細な規定は証拠編第2部に置かれています。ここではその概要を述べるにとどめます。
時効の効果は、権利を取得させるもの、これを喪失させるものです。本条は、ただ所有権の得喪に関して規定するだけです。
時効には2種類あります。「取得時効」と「免責時効」です。
「取得時効」とは、一定期間物を占有し法律に定めた要件を具備する者がその物の所有者となることをいいます。例えば、土地を30年間占有した場合にはその土地の所有権を取得します(証拠編第146条)。
「免責時効」とは、一定期間債務の弁済の督促を受けない場合にはその債務を免れることをいいます。例えば、金銭の貸主が返済を督促せずに30年を経過した場合には、債務者は返済の義務を免れます(証拠編第150条)。
免責時効については、本条に関係がないので、証拠編で説明します。
201 時効については2つの説があります。第1説は、売買・交換のように、時効そのものを権利の取得・消滅原因とするものです。第2説は、時効そのものは何の原因にもならず、単に権利の取得・消滅の正当の原因がある証拠とするものです。
第1説によれば、時効は直ちに権利を取得・消滅させる方法となります。つまり、物を30年間占有すれば、ほかに原因は不要です。単にその30年の占有を取得の原因とするわけです。
第2説によれば、例えば、不動産を30年間占有した者は、当初必ず正当にその不動産を取得する行為つまり売買・交換・贈与・相続のような所有権を移転すべき行為があったと推定し、法律がその占有者を真の所有者と定めます。この説は時効を証拠の一種とするわけです。
証拠編第92条によれば、日本民法は第2説を採用していますので、第42条に時効を列挙せずに、さらに別に1条を設けてこれに関する規定を置いています。そのため、本条には「時効の性質及び効力については」とあるわけです。その「性質」というのは、時効を取得・消滅の方法とするのか、これを証拠の方法とするのか、という意味です。この性質・効力その他時効に関する種々の規定は、証拠編第2部第8章に置かれています。
時効は、動産に関するものと不動産に関するものとでその効果が大きく異なります。そのため、本条では「動産及び不動産」とするわけです。
202 時効に関してはさまざまな議論があります。これを不正な法だという者もあります。他人の物を押領する者も時効によってその物を取得し、法律上の所有者となることができるからです。また、まだ義務を履行しないことが明らかな者も、時効を主張して法律上完全に義務を免れる場合があります。
時効の制度は、人々を安心させるためのやむをえないものであると考えられます。時効の制度だけでなく、公益を目的としてある事柄に画一的なルールを設け、それに対して反対の証拠を挙げることを認めないとすれば、往々にして不正な結果を生ずることになるでしょう。そうした例はどの国でも少なくありません。そのため、強いて時効の法を弁護しようとすれば、穿鑿論を展開せざるをえないのです。
時効に関しては、私もまた別の考え方を持っています。証拠編の時効の章で説明しましょう。
203 略(論説)
*1:動産及び不動産の所有権の取得及び消滅に関する時効の性質及び効力については、証拠編の規定を適用する。