【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第60条【樹林・竹林の用益②】

1 従来ノ所有者ノ定期採伐ヲ為ササリシ保存木及ヒ大樹木ニ付テハ用益者ハ其樹木ノ定期産出物ノミヲ得ル権利ヲ有ス*1

 

2 然レトモ用益権ノ存スル建物ノ大修繕ヲ要スルトキハ用益者ハ枯レ又ハ倒レタル大樹木ヲ之ニ用ユルコトヲ得*2

 

3 若シ生木ヲ要スルトキハ虚有者立会ニテ其必要ヲ証セシ後之ヲ採伐スルコトヲ得*3

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

277 保存木とは、前条にいう第1の樹林の中にも、第2の樹林の中にもあるものです。そもそも所有者は樹林の中で将来有価の用材となる見込みのある樹木は、たとえ採伐すべき部分にあっても、これを保存してそれが大きく成長することを待つことがあります。これが「保存木」です。
 大樹木とは、多くは第2の樹林に属します。いずれにしても大木として用いる目的で生育するものです。 

 上の2種類の樹木は定期採伐しないのが普通です。そのため、用益者はこれを採伐することができません。ただその樹木から生ずる産出物つまり栗・楊梅のような果実、落葉、枯枝の類を収集する権利を有するにすぎません。しかし、前所有者が定期採伐していたものは、その慣行に従い、用益者もまた採伐することができるのはもちろんです。

 樹木と建物とを合併して用益権を設定し、その建物の大修繕を必要とする場合には、本条第2項にいうように枯損木をこれに充てることができます。なお生木を必要とする場合には、特に採伐することができますが、虚有者の立会いを求め、果たして採伐する必要があるかどうかを証明した後でなければ、採伐することができません。

 小修繕を必要とする場合には、この規定によることはできません。用益者の自費でこれを支払わなければなりません。また、たとえ大修繕であっても建物と関係のない場合、つまり用益者の所有の建物や樹林の用益権と別物であるものについては、本条の規定によることはできません。

 修繕の大小区別は、第86条にこれを掲げています。小修繕はすべて収益で負担するものとし、大修繕は収益のみではし難いものと定めているため、本条の規定があります。

*1:従来の所有者が定期採伐をしていなかった保存木及び大樹木については、用益者はその樹木の定期産出物のみを得る権利を有する。

*2:前項の規定にかかわらず、用益権の存する建物の大修繕を必要とするときは、用益者は枯れ、又は倒れた大樹木を使用することができる。

*3:前項の場合において、生木を必要とするときは、虚有者の立会いによりその必要を証明した後に伐採しなければならない。