【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第79条【担保の設定証書】

担保ノ設定証書ニハ前条ニ定メタル金額ニ対スル保証人又ハ用益者ノ一身ノ引受ヲ併記ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

324  第76条により担保を提供する場合には、その担保を設定する証書を作成します。例えば、保証人を立てる場合には保証契約書を作成し、質権や抵当権などを設定する場合には質入証書や抵当証書を作成します。担保はもともと従たる契約で、主たるものは用益です。用益から生ずる義務、つまり第76条に掲げる返還義務・償金支払義務は主たるものです。担保の契約から生ずる義務は従たるものです。主たる義務の不履行の場合にはじめて従たる義務の履行を請求するものなので、従たる義務には金額を確定しておかなければその履行を要求するに当たって漠然となる不都合があります。そこで、本条では前に規定した金額を担保の設定証書に明記し、この金額について保証人に引受けをさせるわけです。

 「一身の引受け」とは、すべて身の上に引き受けるという意味で、物品の上に引き受けるということとは反対です。保証人はもともと一身に引き受ける者です。この引受けがあれば、保証人がその義務を履行しない場合には、その財産を差し押さえて履行させることができます。また、用益者はもともと返還義務・償金支払義務を負いますが、ここには特に金銭を定め、これに対して一身の引受けを明言させます。このような引受けがあれば、その金額に達するまでは直ちにそのすべての財産を差し押さえることができるという便利さがあります。

 保証人は主たる義務者に代わって義務を弁済する者で、その契約には必ずしも義務の金額を記載しません。その借金についての保証人のようなものは、その借金の額に対して保証することはもちろんですが、用益者の保証人はもともと用益者の善良な管理、つまり用益物を保存し、損害があればその賠償をすることを保証するもので、ただ用益者の義務を保証するということだけの証書では、保証の金額は判然としません。そのため、フランス民法では保証人の保証すべき金額について論争があります。日本民法は既に前条で保証すべき金額を定める方法を規定し、さらに本条を設けて保証人の義務の額を明らかにしようとしています。これが本条の主眼です。

*1:担保の設定証書には、前条に定めた金額に対する保証人又は用益者の一身の引受けを併記するものとする。