1 用益者ハ動産及ヒ不動産ノ小修繕ヲ負担シ其求償権ヲ有セス*1
2 大修繕ハ用益者ノ過失ニ因リ又ハ小修繕ヲ為ササルニ因リテ必要ト為リタルトキニ非サレハ用益者之ヲ負担セス*2
3 屋根若クハ重モナル牆壁ノ修繕又ハ重モナル梁柱若クハ基礎ノ変更ヲ建物ノ大修繕トス*3
4 石垣、土手及ヒ牆壁ノ改造モ亦之ヲ大修繕ト看做ス*4
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
336 用益物に修繕を必要とする場合に、虚有者と用益者のどちらがこれを負担するかを定めることは重要です。
日本民法は、フランス民法にならい、修繕を大修繕と小修繕の2種類に区別しています。大修繕に属するものについては、虚有者も用益者もともにその責任を負いません。小修繕については用益者がその責任を負うとしました。これが本条第1項の規定するところです。
このように修繕を2種類に分け、その一方のみを用益者の負担とする理由が、原案の説明書に述べられています。その理由は2つあり、第1に、そもそも善良な管理人は収穫の中から控除して小修繕をするのがふつうだということです。つまり、小修繕は収穫でこれをなすべき性質のものです。収穫する権利は用益者に属します。そのため、用益者が小修繕をする責任を負うのが妥当です。第2に、そもそも小修繕の多くは物を使用することによりその必要を生じるものです。物を使用する権利は用益者に属します。そのため、用益者が小修繕をするのが妥当です。
用益者は大修繕をする責任を負わないのが原則ですが、場合によってはその責任を負うことがあります。つまり、第2項にいうような場合です。この場合には用益者が通常の大修繕の責任を負うというよりも、むしろその過失や懈怠の結果として生じたものを回復する義務を負わせるものです。そのため、この規定は第84条第2項の原則を適用したもので、新たに1つの義務を用益者に負わせるものではありません。
以上に掲げる場合のほかには、用益者は大修繕の責任を負いません。用益者が任意に大修繕をした場合に計算をどうすべきか、大修繕の責任は誰がこれを負担するかという問題は非常に重要で、次条で説明します。
337 以上、修繕には大小の区別があることを示し、用益者は小修繕だけの責任を負い、大修繕はその過失や懈怠の結果によるのでなければこれをする責任を負わないことを説明しました。そのため、修繕の大小を区別してこれを明瞭にすることは非常に重要です。ここで本条に第3項を掲げてその範囲のおおよそを示しています。
第3項には大修繕に属するものを掲げています。第4項にもまた大修繕とみなすものを示しています。この2項に掲げるものはすべて不動産に関するものであり、動産の大小修繕はどうこれを区別するかがわかりません。不動産についても単に大修繕に属するものだけを掲げ、小修繕とは何かを示していません。そのため、大修繕に属しないものはことごとく小修繕に属するのか、第3項の中に2、3の事項を示してはいますが、その範囲ははっきりしません。そこで、本編第176条で大小修繕の区別を明らかにすることが非常に重要だと考えるので、以下の論説の中でこれを説明します。
338~343 略(論説)