【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第96条【第三者による用益不動産の侵奪等があった場合】

用益権ノ継続間用益不動産ニ第三者カ虚有者ノ権利ヲ害ス可キ侵奪又ハ作業ヲ為ストキハ用益者ハ其事実ヲ虚有者ニ告発スルコトヲ要ス若シ此告発ヲ為ササルトキハ為メニ生シタル総テノ損害及ヒ第三者ノ取得スル時効又ハ占有権ニ付キ其責ニ任ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

381 用益者が用益物を保存する責任を負うことについては、既に第84条で通則を掲げています。本条はさらに特別の場合について規定するものです。

 「不動産の侵奪」とは、例えば、第三者が土地を押領したり、その境界を侵害したりすることをいいます。

 「作業」という文字は、非常に不適当です。むしろこれを侵害行為というほうがよいでしょう。例えば、第三者が用益地の上に地役を行使する行為、要役地に属する地役の承役地主がこれを拒却する行為などを指します。

 用益物に対して第三者から提起する訴訟も侵害行為の1つです。その完全所有権について訴訟をする場合には、多くは虚有者か、虚有者と用益者をあわせて被告とすべきです。たとえ用益者のみを被告としても、用益者は所有者ではないことを主張すれば、その訴訟の相手とはならなくなります。しかし、第三者と用益者との間に訴訟が生じないとは限りません。用益者が失敗した場合には、虚有者は第98条によりその判決の害を受けないことを主張することができますが、30年を経過すると、結局その判決は虚有者に対してもまた効力を有するものになります。用益者が地役に関して要請または拒却の訴訟をした場合にもまた同様の結果となることがあります。

 これらの侵奪・作業をする者がある場合には、不動産に損害を与えることがあります。第三者が土地を侵奪した場合や、地役を行使するのが1年に及ぶ場合には、土地または地役の占有権を取得します。これを取り戻そうとする場合には、虚有者・用益者は原告となり、占有訴権を行使する必要が生じる場合があります。また、その占有が30年に及ぶ場合には、時効によって完全に土地の所有権を取得され、地役を行使される結果となります。そして、虚有者は自ら用益物を管理しないので、これらの侵奪や作業があっても多くはこれを知ることができません。用益者は用益物の看護人なので、本条にいうように、すべて侵奪作業の事実を虚有者に告発する責任を負います。

 用益者がこの告発をせずに、上に述べるような結果の損害を虚有者に与えた場合には、その賠償義務を負います。これは用益者の一般の義務で、本条の規定を待つまでもありません。

 本条は不動産のみについて規定したものですが、第三者が動産に対して侵奪のような権利を害することをするときもまた、この規定に従うことになります。

*1:用益権が継続している間において、用益不動産に第三者が虚有者の権利を害する侵奪又は作業をしたときは、用益者はその事実を虚有者に告発しなければならない。この告発をしなかったときは、用益者はそれにより生じたすべての損害及び第三者の取得する時効又は占有権について責任を負う。