【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第97条【用益物に関する訴訟とその費用負担】

1 虚有者カ原告又ハ被告トシテ用益物ノ完全ノ所有権ニ係ル訴訟ヲ為ストキハ用益者ヲ其訴訟ニ召喚スルコトヲ要ス*1

 

2 用益者ハ右訴訟費用ノ利息及ヒ収益ノミニ関スル訴訟費用ヲ負担ス然レトモ用益権ノ設定証書ヲ以テ用益者ニ追奪担保ヲ為シタルトキハ用益者ハ総テノ訴訟費用ヲ負担セス*2

 

3 如何ナル場合ニ於テモ用益者ハ虚有権ノミニ関スル訴訟費用ヲ分担セス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

382 前条には用益者から虚有者に告発すべき場合を規定しました。本条はそれに照応して虚有者から用益者を召喚すべき場合を規定しています。

 第三者が虚有者に対して用益物の完全所有権に係る訴訟を提起した場合や、虚有者から同様の訴訟を第三者に対して提起した場合には、用益者を訴訟に参加させるため、これを召喚しなければなりません(民事訴訟法第53条)。なお第98条の規定と対照してください。

 訴訟が虚有権のみに関する場合には、所有権は支分して虚有権と用益権になり、それぞれ別にこれを有する者があるので、用益物の完全所有権に係る訴訟では原告であれ被告であれ虚有者・用益者ともに訴訟人となるのは当然です。そうでなければ他人に属する物を裁判上で争うことになります。これが規定の趣旨です。

 訴訟が虚有権のみに関する場合は、虚有者1人でこれをし、用益者には関係がないのでこれを参加させる必要はありません。また、用益権のみに関する場合には、用益者は第67条により独立してその訴訟をすることができます。この場合には、虚有権に関係を及ぼすことがあります。その場合には、前条にいう告発義務が生じます。

 

383 本条第2項以下は訴訟費用の負担について規定し、これを3つの事項に分けています。つまり、完全所有権に関する訴訟費用、用益権のみに関する訴訟費用、虚有権のみに関する訴訟費用です。

 完全所有権に関する訴訟費用は、虚有者がその元本を支払い、用益者がその利息を支払うことを定めています。この事項についても、ここまでいろいろ説明したように、用益権は収益権を有するので、訴訟によって用益物を保存しようとする場合には、訴訟費用の利息を負担することになります。

 本条は主として虚有者・用益者が勝訴した場合を想像し、用益権が継続する間は用益者より訴訟費用の利息を払わせる目的を有しています。第三者から完全所有権の訴訟を起こし、用益物を追奪されたような場合には、用益権は即時に消滅し、いまだかつて用益権が成立したことがないことになることもあるでしょう。原案の説明書によれば、このような場合を示して、「この場合に用益者にその終身の間訴訟費用の利息を支払わせるのは穏当ではない。また実際にも行いにくいだろう。直ちに清算して1回で若干の金額を支払わせるほうがよい。フランスでは、こうした場合には費用を平等に二分してその半分を用益者に負担させることが多い。これは虚有権と用益権とを同等の価額とするものである。この方法によらない場合には、用益権の価額を評定しなければならず、用益者の年齢・健康等を参考にするという困難が生じる。そのため、日本でもフランスの例に従うほうがよい。」と述べています。このようにすると、用益者に訴訟費用の利息を負担させる法文に対しては異論が生じることでしょう。

 用益権だけに関する訴訟は用益者の利害に係り、虚有権だけに関する訴訟は虚有者の利害に係るので、各自利害の係る者でその費用を負担するのが民法の原則で、これは説明するまでもありません。

 

384385 略(論説)

*1:虚有者が、原告又は被告として用益物の完全所有権に係る訴訟をするときは、用益者をその訴訟に召喚しなければならない。

*2:用益者は、前項の訴訟費用の利息及び収益のみに関する訴訟費用を負担する。ただし、用益権の設定証書をもって用益者に追奪担保をしたときは、用益者はすべての訴訟費用を負担しない。

*3:いかなる場合においても、用益者は虚有権のみに関する訴訟費用を分担しない。