【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第162条【特別法の規定に従うべき鉱坑が永借地にある場合】

永借人ハ地底ニ鉱物在ルトキ開坑ノ特許ヲ得タル者ヨリ所有者ニ払ヘル償金ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス然レトモ此特許ヲ得タル者ノ地上ニ加ヘタル損害ノ為メ賠償ヲ受クル権利ヲ有ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

89 永借地に鉱坑がある場合には永借人はこれを開掘することができるのか、既に開掘した場合には永借人はこれを継続することができるのか、こうした疑問は特別法の規定に従ってこれを決すべきものなので、民法では別にこれについて規定をしていません。ただ、ここでは、第三者が開坑の特許を取得してその鉱物を採掘するために所有者に支払う償金について永借人がどのような権利を有するかということを規定しているにすぎません。

 民法は上の償金について永借人は何の権利も有しないとしました。永借人は地上の使用・収益を目的としているので地底にある鉱物とは何の関係もないというのがその理由で、実に妥当な規定というべきです。

 しかし、特許開坑人がその鉱物の採掘のために地上に損害を与えた場合、例えば用水を欠乏させたり、土地を陥没させたりした場合には、永借人はこれに対し損害の賠償を請求することができます。過失または懈怠によって他人に損害を与えた者はその賠償をする責任を負う(第370条)とする一般原則は、どのような場合にも適用されるべきものだからです。

 本条は、永借人の権利について規定をしたものです。第157条第2項には「特別ノ合意ナキトキハ下ノ規定ニ従フノ外通常賃貸借ノ規則ニ従フ」とあるので、本条のこの規定は永借人に限定して適用すべきもので、通常の賃借人については別に規定がなされているかのように読めます。前節では、賃借人が第三者より所有者に支払われた償金について権利と有するかどうかということが規定されていません。私は、通常の賃借人もこの償金について何の権利も有しないと考えています。そこで、これを前節に移し、第157条第2項をこの永貸借に適用するほうが順序から見ても妥当でしょう。つまり、順序が妥当ではないので、永借人と通常賃借人との間に権利の有無の違いがあるのではないかという疑問を招いてしまうわけです。

*1:永借人は、地底に鉱物が存するときに開坑の特許を取得した者より所有者に支払われる償金については、権利を有しない。ただし、永借人は、この特許を取得した者が地上に加えた損害の賠償を受ける権利を有する。