【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第160条【永借人の権利③】

永借人ハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ主タル建物ヲ取除クコトヲ得ス従タル建物ト雖モ其存立ノ時期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

87 本条は建物を取り除くことについて規定したもので、その精神は前条と同様です。

 建物が永借地に存する場合には、樹木が存する場合と同様に、永借人は不便を感じることがあるでしょう。既に第158条に規定したように、永借人は永借地の形質を変更することができるので、従来の宅地を耕地とする場合もありますし、その宅地を工作場とすることもあるでしょう。このような場合には、建物を取り除くことを必要とするのは当然の流れです。しかし、その建物は永貸借が終了した後は所有者自らがこれを使用収益するものなので、永借人が自由にこれを取り除くことを認めるべきではありません。所有者が将来取得すべき利益を失わせることになるからです。

 本条は、この建物を取り除くことについて区別を施し、主たる建物については、いかなる場合でもこれを取り除くためには所有者の承諾を得ることを必要とし、従たる建物については、その存立の時期が永貸借の期間を超える場合に限り、所有者の承諾を得なければなりませんが、そうでない場合には、永借人の権利としてこれを取り除くことができるものとしました。後者の場合に所有者の承諾を得ることを必要としないのは、その建物は永貸借の期間内に存立しなくなり、所有者はこれを到底自分で使用収益することはできなくなるからです。そのため、永借人がこれを取り除いても、少しも損害を受けることはありません。

*1:永借人は、いかなる場合においても、所有者の承諾がなければ、主たる建物を取り除くことができない。その存立の時期が貸借の期間を超える従たる建物についても、同様とする。