【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第158条【永借人の権利①】

1 永借人ハ永借地ノ形質ヲ変スルコトヲ得但永久ノ毀損ヲ生セシメサルコトヲ要ス*1

 

2 永借人ハ常ニ沼沢ヲ乾涸スルコトヲ得又永借地ノ作業ニ益ス可キトキハ其土地ヲ通過スル水流ヲ変転スルコトヲ得*2

 

【現行民法典対応規定】

本条1項

271条 永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

85 本条は、永借人の有する特別の権利を規定したもので、用益者と通常賃借人はこの権利を有しません。永貸借は主として荒蕪地や未耕地の開墾のために設定されるものなので、その目的を達成させるためには、永借人に特別の権利を与えなければなりません。そうでなければ、その土地は依然として従来の形状のままで、ほとんど収穫物を産出することがなくなるので、借賃を出してこれを借りる者などいなくなり、結局は所有者の利益になりません。そのため、民法は永借人に大きな権利を与え、これにより永年にわたって利益を期待することができるようになるという点で間接的に所有者にも利益があり、ひいては国家経済上の利益にもなりえます。

  永借人の権利として、永借地の形質を変更することを認めています。つまり、畑地を田地とし、田地を宅地とするのも永借人の自由です。しかし、このように土地の形質を変更するころにより永久的な毀損を生じさせることは、民法が禁じています。その土地は永貸人に属するものなので、どれほど永借人に利益があっても、いずれ永貸人に復帰した後に永貸人に損害を与えてよいわけがありません。そこで、永借人はこの制限を守り、その制限内で権利を行使しなければなりません。

 民法は永久的な毀損を生じさせることを禁ずるにとどまり、一時的な毀損については禁止していません。土地の形質を変更するためには一時的な毀損を生ずることも免れないこと、その毀損は将来永遠の利益のためであること、という理由によるものです。

  永借人の権利として、沼沢を乾涸することを認めています。これも土地の形質を変更するものですが、畑地を田地とし、田地を宅地とするような場合とは異なります。完全に変更するだけでなく、その変更は永遠にわたって将来あるいは旧状に服することができなくなってしまってもかまいません。つまり、永久的な毀損となっても、それを知ることはできないので、この規定を置かなければ、実際には疑義を生じてしまいます。これが特に明文の規定を置いた理由です。その土地の形質上から論じれば、永久的な毀損を生じたにもかかわらず、なおそうした処置をすることを認めたのは、沼沢の利益は、田地や宅地などの利益には遠く及ぶものではないことは明白だからです。形質上では毀損されていても、債権上では少しも損害が生じておらず、かえって依然よりも価値が増加し、永貸人には損害が生じることはありません。

  永借人の権利として、永借地を通過する水流を変転させることを認めました。その土地の灌漑の利益のため、あるいはその土地で行う工業の利益のためには、水流を変転させることが必要となる場合もあるからです。その変転により損害が生じることもあるでしょう。ただし、必要がないのにそのような措置をすることは許容されるべきことではないので、法文にはっきりと「永借地ノ作業ニ益ス可キトキハ」と規定されています。

*1:永借人は、永借地の形質を変更することができる。ただし、永久的な毀損を生じさせてはならない。

*2:永借人は、常に沼沢を乾涸することができる。永借地の作業に益するときは、その土地を通過する水流を変転させることができる。