【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第159条【永借人の権利②】

永借人ハ原野ヲ開墾スルコトヲ得然レトモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ定期採伐ニ供シタル小木林ノ樹木ヲ掘取ルコトヲ得ス又定期採伐ニ供セサル樹木ニシテ既ニ二十个年ヲ過キ且其成長ノ年期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノヲ採伐スルコトヲ得ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

86 永貸借は主として荒蕪地の開墾のために設定するものなので、永借人に原野を開墾する権利があることは当然です。本条で「永借人ハ原野ヲ開墾スルコトヲ得」と明文で規定したのは、民法が特にこの権利を永借人に与えることを示すためではなく、それ以下の「然レトモ……」という制限的規定を置くためにすぎません。

 荒蕪地を開墾しようとすると、その土地に存在する樹木を掘り取る必要がある場合があります。この場合に永借人がその樹木を掘り取ることができるかどうかは、その樹木の種類によって区別されています。

  定期伐採に供している小木林の樹木は、所有者の承諾がなければ、永借人はこれを掘り取ることはできません。この種の樹木は別に培養保存の費用を要せずして定期的に少なくない収穫を生じることがありますし、伐採して薪としたり、焼いて炭としたりするなど、その利得は決して少なくありません。そのため、永借人は通常の賃借人と同じく、これを伐採して収益をする権利を有することは当然ですが、これを掘り取ってその利益の源を絶ってしまえば、所有者に大きな損害が生じてしまいます。これが、掘り取るには所有者の承諾を必要とする理由です。

  定期伐採に供していない樹木で、既に20年を過ぎ、かつ、永貸借終了後までなお成長する可能性のあるものについても、永借人は勝手に伐採することはできません。この種の樹木は、大きな建物の棟梁や戦艦の材料となるべきもので、これを伐採するか、あるいは保存するかは、大いに所有者の利害に関係します。そのため、民法は永借人が勝手に伐採することを禁じ、これを伐採するにも所有者の承諾を必要したわけです。

  定期伐採に供していない樹木で、まだ20年を経過していないもの、または既に20年以上経過したものの永貸借終了前にその生長が止まる可能性のあるものについては、本条の規定を反対解釈すると、永借人に伐採する権利があるということになります。むしろ、立法者の意思はこの権利を永借人に与えるということにあると断言することできます。ボアソナード氏の注解には「高幹と称する樹木については、民法は弁明しやすい区別をしている。20年を経過せず、かつ、脂を生ずる樹木のように、定期的に伐採すべき性質のものではない場合には、永借人はこれを抜き取ることができる。20年以上経過したものである場合には、永借人はこれを抜き取ることができない。ただし、その樹木の生長が永貸借の終了前に止まる可能性があるほどに年月を経過した場合には、この限りでない。」とあります。これがその証拠です。

*1:永借人は、原野を開墾することができる。ただし、所有者の承諾がなければ、定期採伐に供している小木林の樹木を掘り取ることができない。定期採伐に供していない樹木で既に20年を過ぎ、かつ、その成長の年期が貸借の期間を超えるものも、これを採伐することができない。