【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第155条【永貸借の存続期間】

第2節 永借権・地上権

第1款 永借権

 

1 永貸借トハ期間三十个年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借ヲ謂フ*1

 

2 永貸借ハ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス此期間ヲ超ユル貸借ハ之ヲ五十个年ニ短縮ス*2

 

3 永貸借ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ其更新ノ時ヨリ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス*3

 

4 当事者カ永貸借契約ナルコトヲ明示シ其期間ヲ定メサルトキハ其貸借ハ四十个年ニシテ終了ス*4

 

5 本法実施以前ニ期間ヲ定メテ為シタル不動産ノ賃貸借ハ五十个年ヲ超ユルモノト雖モ其全期間有効ナリ*5

 

6 本法実施以前ニ期間ヲ定メスシテ為シタル荒蕪地又ハ未耕地ノ賃貸借及ヒ永小作ト称スル賃貸借ノ終了ノ時期及ヒ条件ハ日後特別法ヲ以テ之ヲ規定ス*6

 

【現行民法典対応規定】

本条2~4項

第278条 永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。

2 永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から50年を超えることができない。

3 設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、30年とする。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

79 本条第1項は、まず永貸借を「永貸借トハ期間三十个年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借ヲ謂フ」と定義しています。そのため、永貸借と普通の賃貸借とが異なるのは、永貸借の期間は30年以上でなければならないこと、設定の対象は不動産に限られること、この2点です。

 なぜ永貸借の期間は30年以上でなければならないのでしょうか。30年に満たない賃貸借は前節の規定に従わせても不都合はないでしょうが、30年以上にわたる賃貸借については、特に規定がなければ、当事者にとっては大いに不便・不利なものとなります。このように長い期間の賃貸借については、賃借人が自然利益を永遠に期する事業を起こすことを必要とする場合があり、そのためその権利の範囲が広大なものとなることを望み、他方、賃貸人にとっては、長くその所有者としての実権を行使することができないため、賃貸人として負うべき義務が重大なものとなることに耐えられず、なるべくこれを軽減したいと考えるのは当然です。この双方の希望は実に正当なものなので、民法はここに特例を設け、これにより各自の希望を叶えるようにするしかありません。普通の賃貸借のほかに永貸借を設けたのはこの趣旨によるもので、Aの期間を30年未満、Bの期間を30年以上と定めるのは、あえてそうしなければならない理由があってそうなったわけではありません。20年や40年をA・Bの区別の境界とすることもできるでしょうが、立法者は30年を境界とするのを適当として、このような規定を置いたわけです。

 なぜ永貸借の対象は不動産に限られるのでしょうか。賃貸借の期間が長いことを理由として特例を設けるのは、不動産の賃貸借についてだけです。民法では動産の賃貸借についてはその期間に制限が設けられていないので、当事者の合意で30年以上の期間を約することができますが、これもまた普通の賃貸借として前節の規定に従うほかありません。本節に規定されている条項は、動産の賃貸借には適用されません。言い換えれば、本節に規定されているような事項は、動産の賃貸借についても適用する必要がないものです。

 

80 永小作と称する日本古来の土地の賃貸借があります。この賃貸借は、その名称のように、永遠無期のものでした。ヨーロッパ諸国でもこれに類する一種の賃貸借があります。その名を「アンフ井テオーズ」といいます。「アンフ井テオーズ」とはギリシャ語で「播種」という意味です。この賃貸借はもともとギリシャで起こり、後に諸国に伝わったものです。その起源は、戦争によって略奪した未開の土地を賃貸し、賃借人に開墾・播種させるためにするものだったといわれています。この賃貸借は、永遠無期でほとんど所有権と変わりなく、賃借人はその土地に変更を加えることもできるものでした。

 日本の永小作の起源はよくわかりません。しかし、封建制度で土地の売買を認めなかったので、所有者がその土地を売る必要に迫られても、公然と売却することはできませんでした。そこで「永小作」の名を借り、実は売買を行っていたといわれています。そうだとすれば、所有者としての実権が永小作人に移ることは推して知るべしでしょう。ただ、維新の革命により封建制度が打破され、土地の売買が許されることとなったため、それ以後は設定した永小作は真に賃貸借の性質を有するものとなったわけです。

 民法では永貸借を認めていますが、旧来の永小作を認めていません。同じく「永」と称していますが、永小作は本当に永遠無期のもので、永貸借には超えてはならない限界――第2項「永貸借ハ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス」――があります。そのため、この永貸借は、普通の賃貸借と同じく、有期の賃貸借で30年以上50年以下のものとされています。

 このように民法で期間の最長期を限定したのは、1つは一般の経済上のため、もう1つは公義のためです。ここで永貸借を無期のものとすれば、所有者はただ虚名を有するだけで、子々孫々に至るまでその賃貸物を使用することができなくなるので、好き好んで改良することもないでしょうし、その賃貸物を他に売却しようとしても、永遠に義務を負わされる物を買い取る者はほとんどいないでしょうから、財産の流通に大きな障害を来すことになってしまいます。そのため、一般の経済上のために必ず期限を定めなければならないとしたわけです。次に公義の点からこれを見ると、不動産特に土地の価額は年とともに増加するのが普通ですが、その借賃は数十年前に定めたままで、依然として変更されないものとすると、賃貸人は相応の利益を得ることができません。これに対し、賃借人は不当の利益を得ることになり、これは公義に反する結果となります。こうした理由からしても、期限を定める必要があるというほかありません。日本民法の立法者が永貸借は50年を超えてはならないと定めたのは、実に当を得たものということができます。

 このように、一般経済上のため、公義のため、永貸借に期限を設けたわけなので、当事者はこれに違反することはできません。必ず30年以上50年以下の間でその期間を定めなければなりません。この公の秩序に関する規定に違反し、50年以上の期間を定めた場合には、その超過部分は無効です。「此期間ヲ超ユル貸借ハ之ヲ五十个年ニ短縮ス」とする第2項後段はこのことをと示すものです。50年までの貸借は適法なので、賃貸借を無効とすべきではありません。単に超過部分が不適法なだけで、この部分だけを無効とし、適法部分を有効とするのは、条理に照らして当然のことというべきです。

 民法は、永貸借の期間を限定し、50年を超えてはならないとしていますが、いわばこれは1個の永貸借契約について制限を設けているにすぎません。そのため、永貸借の終了に当たってさらに第2の永貸借を約することは当事者の自由です。ただし、この第2の永貸借についても民法の制限を守り、決して50年を超えることができません。これがまさに第3項が規定するところで、私はこの明文を設ける必要を感じないほどです。というのは、第2の永貸借つまり更新は、普通の賃貸借について既に説明したように、第1の賃貸借を継続するものではなく、全く新たな賃貸借を約するものなので、あたかも初めて賃貸借を約することと少しも異なるところがないからです。ただし、賃貸人と賃借人が前後同一なので、あるいは誤解が生じることを恐れて立法者が明文の規定を設けたのでしょうが、私はこれを立法者の老婆心による不必要なものだと評するしかありません。

 

81 普通の賃貸借では当事者がその期間を明示または黙示に示すことがあるのと同様に、永貸借でも当事者が単に永貸借契約だということを明示するにとどめ、特にその期間を定めないこともありえます。この場合には、当事者の意思は永貸借をすることにあるのは明白なので、その期間を定めなかったとしてもこれを普通の賃貸借とみなすべきではありません。第4項は、この場合を想定して、その賃貸借は40年で終了するものと定めたものです。永貸借は30年以上50年以下の期間としているので、その中をとってこのように規定したわけです。

 

82 以上説明したように、民法はいかなる場合でも永貸借の期間は50年を超えてはならないと規定していますが、民法実施以前の賃貸借については特に例外規定を設けています。この例外規定は2つあり、第5項に規定されているものと、第6項に規定されているものです。

 第1の例外 期間を定めた賃貸借はたとえ50年を超えて100年、200年の長きにわたるものでも、その全期間有効なものとしました。法律は既往に遡る効力を有しないことを原則とする(法例第2条)からですが、この原則は法律の適用上に関するもので、立法上遵守しなければならないものではありません。立法上では公益のために新法を既往に遡らせることはよくあることです。民法は公益のために永貸借の期間を50年に限定しましたが、既往の賃貸借期間がこれより長いものを50年に短縮させることができないわけではありません。しかし、既に合意により期間を定め、しかもそれは当時の法律に違反しないものなので、新法はその合意を尊重し全期間有効とするほうが、むしろ穏当というべきでしょう。その期間を数百年、数千年とするようなものは実際にはないでしょうが、長いものでも本条の制限をわずか数年あるいは数十年超えるにすぎないものでしょうし、しかも民法実施以前にそのうちいくらかは経過しているわけですから、そのように扱うのが妥当でしょう。これが第1の例外を設けた理由です。

 第1の例外 期間を定めなかった荒蕪地や未耕地の賃貸借、永小作と称する賃貸借に関するもの、この2種の賃貸借については民法の制限が適用されません。後に特別法でその終了時期や条件を規定することとしました。そのため、その特別法が制定されなければこれを知ることはできませんが、立法者の意思は、上の2種の賃貸借を永遠無期のものとしようとするところではなく、ある条件で終了させるところにあることは明白です。フランスでは、第1革命の際、永遠無期の「アンフ井テオーズ」が廃止され、借賃所得権買戻しの方法が規定されました。つまり、賃借人にその毎年の借賃の数倍の金額を賃貸人に支払わせ、そうして完全な所有権を賃借人に移転させることとしたわけです。日本の将来の立法がこの例を踏襲するかどうかはわかりません。

*1:永貸借とは、30年の期間を超える不動産の賃貸借をいう。

*2:永貸借は、50年を超えることができない。この期間を超える貸借は、これを50年に短縮するものとする。

*3:永貸借は、常にこれを更新することができる。ただし、更新の時から50年を超えることができない。

*4:当事者が永貸借契約であることを明示し、その期間を定めなかったときは、その貸借は40年で終了するものとする。

*5:この法律の施行前に期間を定めてした不動産の賃貸借は、50年を超えるものであっても、その全期間において有効であるものとする。

*6:この法律の施行前に期間を定めずにした荒蕪地又は未耕地の賃貸借及び永小作と称する賃貸借の終了の時期及び条件は、他の法律で定めるところによる。