【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第149条【家具が付属していない建物の賃貸借の終了】

1 家具ノ付カサル建物ノ賃貸借ハ期間ヲ定メサルトキ又ハ之ヲ定メタルモ黙示ノ更新アリタルトキハ何時ニテモ当事者ノ一方ノ解約申入ニ因リテ終了ス*1

 

2 解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ

第一 建物ノ全部ニ付テハ二个月 但賃借人ノ造作ヲ付シタルトキハ三个月

第二 建物ノ一分ニ付テハ一个月 但賃借人ノ造作ヲ付シタルトキハ二个月*2

 

【現行民法典対応規定】

617条1項 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。

一 土地の賃貸借 1年

二 建物の賃貸借 3箇月

三 動産及び貸席の賃貸借 1日

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

68 本条は、前条とは反対に、家具が付属していない建物の賃貸借で、期間を明示していない場合や、期間が明示されていても第147条により黙示の更新があった場合に、その賃貸借が終了すべき時期を規定したものです。

 前条で説明したように、家具が付属する建物を賃借する者は、一時的な使用・収益のために賃借をするだけです。これに対し、家具が付属していない建物を賃借し、これに自分の家具を備え付ける者は、ある程度長い期間賃借しようとしているものと思われます。そうすると、その賃料を年単位・月単位・日単位で定めたとしても、それはただ賃料の標準を定めたまでで、この標準から賃貸借の期間を推定すべきではありません。では、その期間は永遠無限に及ぶものとすべきでしょうか。それは当事者の意思に反することでしょう。当事者がわざと期間を定めないのは、賃貸人が自分にとって不要な間はこれを賃貸することを望んでいるからでしょうし、賃借人はその建物が自分に必要な間はこれを賃借したいと望んでいるからでしょう。自分が必要になっても賃貸を継続し、自分には不要になっても賃借を継続するといったように、自ら好んで権利を拘束し、いたずらに義務を負うためにするものではないことは明らかだからです。そのため、期間の定めがない場合には、賃貸人はその建物が必要となればいつでも解約を申し入れることができ、賃借人もまたその建物が不要になればいつでも同様の申入れをすることができるとするのが妥当です。

 しかし、解約申入れがあると直ちに賃借権が消滅するとすべきではありません。その申入れをする者には何の不便もないでしょうが、その申入れを受けた者は、それが賃貸人の側であればさらに他の賃貸人を探し、賃借人の側であれば他の賃借物を探す時間がなく、損害を受けてしまう可能性があるからです。そのため、法律は解約申入れと賃借物返却との間に多少の猶予期間を設けることとしました。

 

69 解約申入れと賃借物の返却との間の猶予期間は、建物の全部を賃貸借した場合と一部を賃貸借した場合とで異なります。全部の場合には2か月、一部の場合には1か月としています。こうした区別をするのは、全部は一部よりも大きいのでその賃料もまた高くなりますし、全部を賃貸借することは一部を賃貸借するよりも難しいからです。こうした理由から、この猶予期間には長短の差が設けられています。

 立法者はなぜ建物の大小についてはこうした区別を設けなかったのでしょうか。理論からすればそうした区別をすることは妥当ですが、どれを大きな建物とし、どれを小さな建物とするかということを定めるのは非常に煩雑なので、全部の場合と一部の場合とに区別するにとどめたのです。

 建物の全部の賃貸借、一部の賃貸借いずれかにかかわらず、賃借人が造作を付した場合には、猶予期間がそれぞれ1か月長くなります。賃借人が退去の際にこの造作を取り壊すよりは、むしろそのままこれを据え置いて、後の賃借人に譲渡するほうが賃借人にとっては利益があります。造作を譲り受けて賃借をする者の数は、造作付きの建物を賃借する者の数よりは少ないでしょうから、譲受人を探すのに多少時間がかかります。つまり、この期間の延長は、主として賃借人の利益のためにあるわけです

 

70 はじめに賃貸借の期間を定めても、第147条に従って黙示の更新があった場合には、その賃貸借は期間がないものとなります。これについては既に第147条のところで説明しました。この新たな賃貸借はあたかも最初から期間を定めなかったものと同じですから、本条は期間の定めがない場合と同じく、いつでも当事者の一方より解約を申し入れ、これにより賃貸借を終了することができることとしました。

 

71 ここでは、「解約申入れ」と「解約の合意」とを混同しないように注意してください。「解約申入れ」は、法律が当事者の双方に与えた権利で、一方がこの権利を行使しようとする場合には、他方はこれを拒むことはできません。つまり、この申入れには他方の受諾は必要なく、直ちにその効力が生じます。これに対し、解約の合意は、法律の力によらず、双方の意思が合致してはじめてその効力を生ずるものなので、一方より申し込んでも他方がこれを拒む場合には成立することはありません。

 本条は解約申入れに関して規定したもので、これを解約の合意に適用することはできません。合意から返却までの期間は合意で定めることができ、法律はこれに干渉しません。

*1:家具が付属していない建物の賃貸借において、期間を定めなかったとき、又は期間を定めた場合であっても黙示の更新があったときは、当事者の一方はいつでも解約の申入れをすることができ、これによりその賃貸借は終了する。

*2:解約申入れより返却までの期間は、次の各号の定めるところによる。

 一 建物の全部の賃貸借 2か月。ただし、賃借人の造作を付したときは3か月とする。

 二 建物の一部の賃貸借 1か月。ただし、賃借人の造作を付したときは2か月とする。