【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第154条【解除権の留保】

賃貸人カ賃貸物ヲ譲渡サントシ又ハ自己ノ為メ若クハ他ノ特別ナル原因ノ為メ之ヲ取戻サントスルトキハ期間ノ満了前ト雖モ賃貸借ヲ解除スルコトヲ得ル権能ヲ留保シタル場合又賃借人カ賃貸借ノ無用ト為ル可キ未定事故ヲ慮カリテ同一ノ権能ヲ留保シタル場合ニ於テハ前数条ニ定メタル時期ニ於テ各自予メ解約申入ヲ為スコトヲ要ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

78 本条は、期間の定めある賃貸借に関し、その期間が満了しない前に解約することができる特別の場合を規定したものです。

 まず賃貸人について見ると、賃貸人は賃貸借期間の満了前にその賃貸物を他人に譲渡することができるのは当然ですが、賃借権が付着している物、特に借賃が低く賃借期間が長い賃借権が付着している物は、譲受人を見つけるのが容易ではありません。やむをえずその譲渡をあきらめるか、非常に低額で譲渡することもあるでしょう。こうした不都合を避けるため、契約締結の時に期間満了前でも賃貸借を解除することができる権能を自分に留保しておくことがあります。例えば、賃貸借の期間を若干の年月としていても自分がこの賃借物を他人に譲渡しようとする場合には、いつでもこの契約を解除することができるとしておくのです。これを「解除権能の留保」といいます。

 譲渡のためだけでなく、自分に必要な場合が生じることを考慮し、その他特別な原因のためにいつでもその賃貸物を取り戻すことができる便宜を図って、賃貸借を解除することができる権能を留保することがあります。 

 以上の場合に、その予期していた事情が生じたときは、賃貸人は契約を解除し、賃貸物を賃借人の手から取り戻すことができます。しかし、取り戻すため、つまり賃借物返却のため賃借人にわずかの猶予も与えないとすれば、賃借人は大いに損害を受けることになります。そのため、賃借人にさらに賃借物を探し求める余裕を与えるために、第149条から第151条の規定を適用し、解約申入れと返却との間に多少の猶予期間を置くべきものとしたわけです。

 次に、賃借人の側でも、賃貸借が無用となるべき未定事故を考慮し、解除権能を留保しておくことがあります。例えば、判事のようにその意思に反して任地を変更されることがないために賃借期間を長く設定したものの、抜擢や転職により他に転任しなければならないことになるかもしれません。そのため、こうした未定事故を想定して特に解除権能を留保することがあります。この場合には、その事故が生じたときは、契約を解除することができます。ただし、この場合にも賃貸人に新たな賃借人を発見することができるように、前段の場合と同じく解約申入れと返却との間に多少の期間を置くべきこととしました。

*1:賃貸人が賃貸物を譲り渡そうとする場合、又は自己のため若しくは他の特別な原因のためにこれを取り戻そうとする場合には、期間の満了前であっても賃貸借を解除することができる。権能を留保した場合、又は賃借人が賃貸借が無用となるべき未定事故を考慮して同一の権能を留保した場合には、前数条に定めた時期において各自予め解約申入れをしなければならない。