【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第147条【賃貸借の更新の推定等】

1 期間ノ定アル賃貸借ノ終リシ後賃借人仍ホ収益シ賃貸人之ヲ知リテ故障ヲ為ササルトキハ新賃貸借暗ニ成立シ前賃貸借ト同一ノ負担及ヒ条件ニ従フ*1

 

2 然レトモ前賃貸借ヲ担保シタル抵当ハ消滅シ保証人ハ義務ヲ免カル*2

 

3 新賃貸借ハ下ノ数条ニ記載シタル如ク解約申入ニ因リテ終了ス*3

 

【現行民法典対応規定】

619条 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。

2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、第622条の2第1項に規定する敷金については、この限りでない。

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

63 期間の定めある賃貸借がその期間の満了によって消滅することは、第145条に規定されている通りです。その期間が満了し、当事者がさらにまた賃貸借を約することもあります。この場合には、前の賃借権が消滅し、新賃借権がさらに成立します。これを「賃貸借の更新」といいます。

 更新には明示のものと黙示のものとがあります。当事者双方がそれぞれその意思を表明し、新たに賃貸借を締結した場合には、明示の更新があったものとします。この更新については、当事者が前の賃貸借と同一の条件を約するのも、これと異なる条件を約するのも自由で、法律はそのために特に規定する必要はなく、当事者の意思に委ねています。

 黙示の更新については、どのような場合に黙示の更新があると認めるべきか、その更新の効力はどうなるかについて規定しなければなりません。これが本条が設けられた理由です。

 

64 ① どのような場合に黙示の更新があったと認めるべきでしょうか。本条は、この疑問に応答して、賃貸借が終了した後、賃借人がなお収益し、賃貸人がこれを知って異議を述べない場合には、黙示の更新があるとしました。つまり、賃借人がなお収益することと、賃貸人がこれを知って異議を述べないこととの2つが合わさってはじめて更新されるわけです。賃借人がなお以前と同じく収益をするのは暗に更新の意思を示すもので、賃貸人がこれを知って異議を述べずに賃借人に収益させるのもまた暗に更新の意思を示すものだからです。このように双方の意思が暗に合致する以上、ここには契約が成立します。一般の原則からそうならざるをえません。

 この更新については双方の意思が合致することが必要です。一方に更新の意思があっても、他方にこの意思がない場合には、更新されません。つまり、賃借人がなお収益しても賃貸人がこれに異議を述べる場合や、賃貸人が異議を述べずとも賃借人が収益をやめるような場合には、双方の意思が合致しないので、新賃貸借は成立しません。

 賃借人がなお収益をしないこと、賃貸人が異議を述べないことを、どのような状況によってこれを認定すべきかは、事実問題に属するので、裁判所の判断に一任するほかありません。例えば、賃借人が賃貸借終了の日を過ぎてもなおその賃借建物に住居するように、有形上ではなお収益をするに違いない場合でも、その移転先の家屋を発見できないためにやむをえず賃借建物を返却することができないのかもしれませんし、賃貸人がこれを知って異議を述べない場合でも、異議を述べないのは賃借人に移転の猶予を与えるためかもしれません。そのため、外形上の事実がどのようなものかに着目するよりは、むしろこうした事実から双方の意思を推測して更新の有無を判定しなければなりません。

 更新は、前の賃貸借を継続するものではなく、新賃貸借を発生させるものです。前の賃貸借は期間の満了によって当然に消滅するので、これを継続させることはできません。更新が新賃貸借を発生させるものではないことの理由がこれです。更新を有効とするには、普通の契約を有効とするのに欠くことのできない要件を具備することが必要です。つまり、暗黙にせよ双方の承諾があること、その承諾に瑕疵がないこと、双方ともに承諾をする能力を有することが必要です。これらの要件の1つを欠く場合には、更新が有効に成立しないのは当然です。

 

65  更新はどのような効力を生ずるでしょうか。条文によれば、前の賃貸借と同一の負担・条件に従うこととされています。更新は前の賃貸借を継続するものではありませんが、双方の意思は従前の有様をそのまま継続することにあるのは明白だからです。

 しかし、期間については前の賃貸借の期間と同一とすることはできません。前の賃貸借の期間が10年となっていたので、更新された賃貸借の期間も10年となると、双方の意思がこの点についても合致していると推測するとはできません。ただ双方ともに従前の有様を継続することを承諾したまでで、期間の点についてはまだ意思が合致してはいません。そのため、更新には期間がないものとし、以下の数条に規定するように、一方の者の解約申入れによって終了することとしました。

 更新は当事者の間で有効となるにすぎません。この更新に関係しない第三者に利害を及ぼすことができないのは当然です。前に説明したように、前の賃貸借を継続するものではなく、新たに賃貸借を発生させるものだからです。

 前の賃貸借を担保した抵当権、第503条に示した旧債権の物上担保は、新債権に移転しないとの原則によって消滅し、前の賃貸借について保証人がある場合には、その保証人は義務を免れます。抵当権や保証人の義務が新賃貸借に移転するものとすれば、更新について承諾を与えていない者に義務を負わせ、既に優先権を得ようとする者に害を及ぼすことになります。これは決して許容すべきことではありません。

*1:賃貸借の期間が満了した後賃借人が収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。

*2:前項の場合において、従前の賃貸借について設定された抵当権は消滅し、保証人は義務を免かれる。

*3:第1項の規定により推定される賃貸借は、次条以下の規定により、解約申入れによって終了する。