【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第100条【数人が終身・不分で用益権を設定した場合】

数人ノ終身ヲ期シテ同時ニ且不分ニテ用益権ヲ設定シタルトキハ死亡者ノ持分ハ生存者ヲ利ス其用益権ハ最後ノ死亡者ノ死亡ニ因ルニ非サレハ消滅セス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

388 無期永遠の用益権は、ほとんど所有権と異なるところがなく、国家経済上の害を惹起してしまうので、法律はこの権利を終身権とし、いかなる場合にも用益者の死亡により消滅するものとしました。

 用益権は必ずしも1人のためにだけ設定するのではなく、数人のために設定することもできます。数人のために設定した場合には、数人同時に、または順次にこれを行使します。これは第48条が明確に定めるところです。数人が順次にこれを行使する場合、例えば兄弟2人のためにこれを設定し、兄がまずこれを行使するとしたときは、兄が死亡すればその用益権は消滅し、弟がはじめてこの権利を行使することになります。兄が死亡すれば、という未必条件が成就したのでこれを行使できるわけです。弟も死亡すると、この支分権は完全に消滅します。

 数人同時に用益権を行使すべき場合でも、分割して設定したとき、例えば、兄弟2人のために田地10町の上にこの権利を設定し、兄は6町歩、弟は4町歩と分割したときは、これはその土地は1か所ですが、2つの用益権が併存し、その間には何らの関係もありません。そのため、兄が死亡すればその権利が消滅し、弟はその部分について用益する権利がないことはもちろんです。

 

389 前例に反し、兄弟同時に不分で田地10町の上に用益すると定めた場合には、兄弟ともに10町歩の上に権利を有する者なので、これは兄の部分、あれは弟の分と指定することができません。ただし、実際にはその収益するところ、つまり持分は必ず一定し、例えば、兄は6分、弟は4分の用益をすることになるでしょう。この場合に兄が死亡すれば、その持分6分の用益権は消滅し、これにより当然虚有者に服することになります。

 本条では死亡者の持分は生存者に帰属すると定めているので、この場合に弟は兄の死亡によりその持分6分をも自己の利益とすることができます。これは弟もまたはじめから10町歩の上に権利を有していることによるものですが、設定者の意思としては兄弟2人が終身困厄に陥ることがないことを目的とするもので、あえて兄弟の間を区別することを望むものではありません。10町歩の収益を挙げてこれを彼らに一任したものと推測することができるからです。

*1:1 数人の終身を期して、同時に、かつ、不分にて、用益権を設定したときは、死亡者の持分は生存者に帰属する。

2 前項の用益権は、最後の死亡者の死亡によらなければ、消滅しない。