【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第104条【用益者の費用による用益物の保管等】

1 用益者カ用益物ニ重大ノ毀損ヲ加フルトキ又ハ保持ノ欠缺若クハ収益ノ濫妄ニ因リテ用益物ノ保存ヲ危フスルトキハ裁判所ハ用益権消滅ノ他ノ原因ノ一ノ生スルマテ用益者ノ費用ヲ以テ用益物ヲ保管ニ付シ又ハ此時間虚有者ヨリ毎年用益者ニ払フ可キ金額若クハ果実ノ部分ヲ定メ虚有者ノ為メ用益権ノ廃罷ヲ宣告スルコトヲ得*1

 

2 裁判所ハ右ト同時ニ其年ノ果実及ヒ産出物ノ分割ヲ定ム*2

 

3 将来ニ於テ用益者ニ払フ可キ金額又ハ果実ノ価額ハ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

402 本条は虚有者の権利を保護するために設けられたものです。そもそも、用益者は、善良な管理者のように用益物の保存に注意し、その滅失・毀損を防止すべき責任を負います。この責任に背き、重大な毀損を加えたり、怠慢により小修繕等の保持の方法を尽くさなかったり、収益を多く得ようとしてみだりに行為をしたり、これにより用益物の保存を危うくしたりすることがあれば、用益権が消滅した場合には、その物が虚有者の手に戻ってももはや何の用もなさないので、必然的に虚有者を害することになります。虚有者はその損害の賠償を請求する権利を有していますが、用益者が無資力となった場合には、これまたどうすることもできません。用益者に資力が生ずるのを空しく待つほかありません。法律は用益者と虚有者とを平等に保護しなければなりません。一方は物に対して権利を有し、他方もまた物に対して権利を有するので、ともに法律の保護を求めることを認め、これにより公平を維持することが必要です。これが、上に挙げた場合などに虚有者のために特に救済の道を開いた理由です。

 救済の方法は2つあります。1つは用益物を保管すること、もう1つは用益権を廃罷することです。いずれにすべきかは状況により判断すべきで、法律上あらかじめさまざまな場合を想像して、こういう場合には保管する、こういう場合には廃罷すると規定することはできません。そのため、事実上裁判官の判断に一任されています。

 ここでは、法文に「できる」とあり、「しなければならない」とはされていないことに注意しなければなりません。そのため、裁判官はこうした処置を施しても施さなくてもよいかのようですが、もともとこの処置は用益者がその義務を尽くさないことに対する責罰です。既にこれを責罰としているのであれば、必ずこれを行使しなければなりません。そのため、裁判官が、重大な毀損があると認めたり、保持せずまたはみだりに収益することにより用益物の保存を危うくしていると認めたりした場合には、いずれか一方の責罰を加えなければなりません。その事実を認めながら何の責罰をも与えないのは不法の裁判です。いずれの処置をしてもよいという意味でこの文字を用いたにすぎません。

 

403 用益物を保管する場合には、その保管費用は用益者に負担させるほかありません。用益者の行為によりその費用を要するに至ったからです。

 これに対し、用益権を廃罷する場合には、用益権は消滅し、用益者は再び用益することができなくなります。これはその不当な行為に基因するものですが、そのために全部の権利を失わせるのは決して正当なこととはいえません。ましてや全部の権利を失わせると、そのために虚有者に不当な利得を与えることになってしまいます。そのため、虚有者からその将来すべき金額や果実のいくらかの部分を用益者に支払わせ、また廃罷を宣告した当年の果実と産出物についてもそのいくらかの部分を用益者に分割させます。この部分を定めることについては裁判官に一任されています。

 

404 用益物を保管するといっても、用益権が消滅するわけではないのは当然です。そのため、第99条に列記した原因の1つが生ずるまでは、用益者は保管費用を支出して用益物全部の収益をすることができます。これに対し、用益権廃罷の宣告があった場合には、用益権はこれにより消滅し、用益者は虚有者からその取得する金額・果実のいくらかの部分を受け取ることになります。つまり、物権が人権に変じるので、この場合には権利行使期間を限定しなければなりません。法律はこれを用益権消滅の他の原因の1つが生ずるまでと制限しました。これは妥当な規定です。この債権はもともと用益権から変化したもので、用益権には法定の消滅原因があるからです。用益者が依然としてその権利を有するのであれば、この法定の原因が生ずるまでその権利を行使できることを争うことはできません。いったん債権に変じたということで、その用益権が消滅すべき時に達していないのにその債権の行使を禁ずるとすれば、これは不当に用益者を害して虚有者を利することになります。また、その用益権が消滅すべき時に達したにもかかわらず、なおその後もこの債権の行使を許すとすれば、虚有者を害して用益者を利することになります。これは不当な結果といえるので、この債権を行使する期間を旧用益権を行使する期間と同一にし、両者の間に幸不幸が生じることないようにしています。

 そのため、この債権は、第1に用益者の死亡、第2に用益権を設定した期間の経過、第3に用益者の放棄の明示によって消滅すべきことは当然ですが、第99条に規定した第4・第5の原因はここに適用されるべきではありません。用益権がいったん廃罷されれば再びこれを廃罷できるわけがなく、また不使用についても用益権として存在する以上は30年の不使用が必要ですが、既に債権に変じた以上は通常免責時効の期間によることになります。証拠編第156条によれば、この種の債権は5年で時効にかかるものとされています。そのため、本条の債権もまた5年間行使しない場合には、また時効にかかるものといわなければなりません。

 ここで注意すべきは、前段に説明したように、廃罷の場合には物権が人権に変じるので、かつての用益者は旧用益物について何らの権利も有しないということです。そのため、後にかつての虚有者がその物を他人に譲渡した場合には、その譲受人に対し何らの請求もすることができません。かつての虚有者が無資力となり、そのために予定の金額等が支払われなくとも、これは自分の過失によるものなので、用益者は甘んじてその損失を受けなければなりません。

 

405  用益権が廃罷された翌年よりその消滅に至るまで虚有者が支払うべき金額・果実の価額は、すべて日割で用益者がこれを取得します。法定果実については、第54条に定めるように日割で取得するのが原則だからです。天然果実は土地から分離した時でなければ取得させることができません。これは第52条が定めるところです。これに対し、本条の場合には、法定と天然とを区別せずすべて果実は日割で計算すべきものとしました。用益者の地位が大きく変動するので、その利益損失を偶然に委ねず、なるべく確実なものとしようとするためにこの区別をしないこととしたものです。

*1:用益者が、用益物に重大な毀損を加え、又は保持せず若しくはみだりに収益を行ったことにより用益物の保存を危うくしたときは、裁判所は、用益権消滅の他の原因の1つが生ずるまで、用益者の費用で用益物を保管し、又はこの期間において虚有者より毎年用益者に支払うべき金額若しくは果実の部分を定めて虚有者のために用益権の廃罷を宣告することができる。

*2:裁判所は、前項の宣告と同時に、その宣告した年の果実及び産出物の分割を定める。

*3:将来において用益者に支払うべき金額又は果実の価額は、用益者が日割計算によりこれを取得する。