【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第110条【使用権・住居権】

第2節 使用権・住居権

 

1 使用権ハ使用者及ヒ其家族ノ需用ノ程度ニ限ルノ用益権ナリ*1

 

2 住居権ハ建物ノ使用権ナリ*2

 

3 使用権及ヒ住居権ハ用益権ト同一ノ方法ニ因リテ成立シ及ヒ同一ノ原因ニ由リテ消滅ス*3

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

415 使用権は用益権の一種です。通常の用益権では用益者がその用益物の全部について使用・収益しますが、使用権では使用者がその物の全部について権利を有するわけではありません。ただ自分と家族の需用に対してだけ供給することができ、その他の部分は使用物の所有者に属します。そのため、これを「制限的用益権」と称してもよいでしょう。

 使用権は、これを土地・建物などの不動産・動産に設定することができます。建物に設定した場合には、これを住居権と称します。名称はこのように異なりますが、ただその目的物が異なっているだけで、法律上この両者には何の差異もありません。

 使用権・住居権の多くは、自分の親族故旧が終身にわたって衣食住に窮することがないようにするために設定するものです。しかし、これを扶養料と混同してはいけません。扶養料もまた同じ目的によるものですが、これは債権・債務の1つにすぎません。これに対し、使用権・住居権は物権で、物に設定するものです。しかも、不動産に設定するのがふつうですので、この権利はほとんど不動産に対する権利です。扶養料は必ず動産に対する権利です。その性質はこのように異なっています。そのため、その効果もまた異なり、扶養料に関する規則をこの使用権・住居権に適用すべきと説く者もいますが、これは根本を誤っており、不当というほかありません。

 

416 さて、本条は、使用権は使用者とその家族の需用の程度に限定する用益権だとしています。住居権は建物の使用権なので、この権利を行使する範囲は使用者1人の需用を限度とするものではありません。その家族の需用のためにも行使することができます。家族とは次条に定めるように配偶者・卑属親・存続親・随身雇人を含み、その人数は常に同じではありません。そのため、この権利を行使する範囲は伸縮増減します。例えば、AがBと婚姻すればBの需用もまたその物によって充足されるので、使用権の範囲は以前のほとんど倍になりますし、AとBの間に子ができ、そのために乳母を雇うと、さらにその範囲は拡張するでしょう。その子が成長して妻を迎え、子ができれば、以前の数十倍、数百倍となることもあるかもしれません。これに対し、Aにまだ祖父母がいるときにこの権利を設定し、後に祖父母・父母が死亡した場合には、その権利の行使範囲は非常に縮小します。このように範囲は常に一定せず、それが所有者の利益となることもあれば、その損失となることもあるのは、いわばこの権利固有の性質で、別に問題はありません。設定者の意思を推測すると、使用者をその終身にわたって生活に困窮させないためのものなので、その家族が増え、それにより需用が増した場合には、その需用の程度に応じてその物から供給させるのが妥当です。そうでなければ、使用者は困窮し、設定者の意思に反することになるのは必然です。これがこの権利の行使範囲が常に一定しないとしても問題はないという理由です。

 「需要の程度に限る」というときの「程度」とは、使用者の地位がどのようなものかによって変わってきます。「ドモロンブ」は、この需要は使用者の資産とそのふだんの振舞いによってその多寡が定まるとします。実際にはこの2つの点から定めるほかないでしょう。つまり、こうした点は事実上の問題であり、法律上の問題ではありません。

 

417 用益権には法律によって設定するものがあります(第45条)。使用権・住居権もまた法律の設定によるものがあるでしょうか。おそらくはこうしたものはなく、特に住居権については決してないと断言してよいでしょう。財産取得編第427条に「夫又は戸主である婦が配偶者の特有財産について有する権利は、用益者の権利と同一とする」と規定されているように、特別な身分上の関係がある者のために法律により用益権を設定することがありますが、これは大きな制限のある用益権を設定すべき必要がある場合ではないからです。

 しかし、山林や秣場については、その所在町村の住民に対し、枯木を伐採したり、落葉を拾ったり、牛馬に与えたりすることを法律で認める場合があります。この場合には、あたかもその住民のために使用権を設定したかのようですが、これは一種の特別の権利を与えるにすぎず、これを使用権と同一視することはできません。この特別の権利は現在の住民の終身に限定されるものではなく永遠に及ぶもので、現在の住民でもいったんその町村を離れると再びその利益を受けることはできないからです。

*1:使用権とは、使用者及びその家族の需用の程度に限られる用益権をいう。

*2:住居権とは、建物の使用権をいう。

*3:使用権及び住居権は、用益権と同一の方法によって成立し、同一の原因によって消滅する。