【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第135条【賃借権に対する抵当権の設定】

不動産ノ賃借人ハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得但譲渡又ハ転貸ヲ為スコトヲ得ヘキ場合ニ限ル*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

42 日本民法は賃借権を物権としているので、不動産に賃借権を設定した場合には、この権利を抵当権の目的とし、債権の担保に充てることができるのは当然です(債権担保編第197条)。

 しかし、抵当権の目的とするにはその物が譲渡することができるものであることが必要です。使用権・住居権は譲渡することができないものなので、これらを抵当権の目的とすることはできません。抵当権の効力は、債務者がその主たる債務を履行しない場合にはこの抵当目的物を競売し、その代価を主たる債務の弁済に充てることにあるので、譲渡することができないものを競売、つまり強制譲渡をすることはできず、抵当権の目的としてもその効力は生じないからです。

 賃借権は、前条に明示するように、性質上これを譲渡することができるものなので、この権利を抵当権の目的としてもよいのですが、反対の慣習や合意がある場合には譲渡することができないとしたので、そうした場合には抵当権の目的とすることができないのは当然です。これが本条ただし書の規定の趣旨です(債権担保編第198条第1号)。

 ところで、このただし書には「譲渡又は転貸することができる場合に限る」とあり、これを裏面から見ると、譲渡することができない場合には抵当権の目的とすることができないだけでなく、転貸することができない場合にも抵当権の目的とすることができないことになります。賃貸人が譲渡を禁じても転貸だけを認めることはありますし、地方の慣習にもまたそのようなものがあります。この場合には、その賃借権を抵当権の目的とするのに何の支障もありません。競売に付することができるからです。しかし、法律はこれを認めていません。私はその理由がどこにあるかわかりません。

*1:不動産の賃借人は、その権利を抵当とすることができる。ただし、譲渡又は転貸をすることができる場合に限る。