【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第68条【用益権の譲渡等】

1 用益者ハ有償又ハ無償ニテ其用益権ヲ譲渡シ賃貸シ又ハ用益ニ付スルコトヲ得且用益物カ抵当ト為ル可キモノナルトキハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得*1

 

2 如何ナル場合ニ於テモ用益者ノ付与シタル権利ハ其用益権ト同シキ期間制限及ヒ条件ニ従フ但賃貸借ノ期間及ヒ其更新ニ付テハ第百十九条乃至第百二十二条ノ規定ヲ適用ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

292 ここまでの各条には用益者の収益に関する権利が規定され、本条にはその処分権に関する規定が掲げられています。

 用益者はもともと収益権だけを有するので、用益物の処分をすることができません。また、住居権と使用権は用益の一種であり、これを譲渡することができないものとされています。そのため、用益権の処分もまたこれをすることができないのではないかという疑問が生じます。本条はこれを明記してその疑いを解くものです。用益物は虚有者に属するのでこれを処分することができませんが、用益権そのものは用益者に属するので用益者は自由にそれを処分することができないわけではありません。そもそも財産は特に法律で売買・譲与を禁じられたもののほかはすべて融通物です。融通物は契約の目的物となることができるのが原則です。

 用益権はこれを売買・交換・贈与・遺贈・賃貸等の方法で処分することができるだけでなく、用益物が土地・建物のように抵当権の目的とすることができるものであるときは、その用益権を抵当とすることができます(抵当権の目的とすることができるものは不動産に限ります)。

 ここに抵当権とあるのは、用益権の抵当権で、用益物を抵当権の目的物とすることではありません。そのため、それを公売処分するに至っても、用益権そのものだけを売却するにとどまるので、この抵当権は大きな価値を有するものではありません。

 

293 第2項は、用益権は早晩消滅するもの、多少の制限があるものなので、用益者がその用益権を他人に与えてもその期限や制限は依然として変わらないことを示しています。そもそも誰でも自分の有しない権利を他人に譲渡することはできないという原則があるので、この項の規定は必要ないものと思われます。ただし、そのただし書は必要です。

 賃貸借には特別の規定を設け、他人の物をも賃貸することができる場合があるとされています。また、他人が契約した賃貸借でも、真の所有者はある年限の間はその約定を遵守する義務があるとされています。用益者が用益物を賃貸した後、賃貸借契約に定めた期限前に自分が死亡した場合や、その他の原因により用益権が消滅した場合には、本項本文の規則によれば、直ちにその賃貸借契約も解除されることになります。そうすると、ある種の用益物(例えば田地)については、賃借人に不利を与えるだけでなく、所有者の不利となることがあります。そのため、賃貸借の章の第119条第122条に規定を置いてこれらの不利を生じないようにし、その賃貸借契約を継続させることとしています。

 

294296 略(論説)

*1:用益者は、有償又は無償でその用益権を譲渡し、賃貸し、又は用益に付することができる。用益物が抵当となるべきものであるときは、その権利を抵当とすることができる。

*2:いかなる場合においても、用益者の付与した権利は、その用益権と同じ期間制限及び条件に従う。ただし、賃貸借の期間及びその更新については、第119条から第122条までの規定を適用する。