【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第14条【動産・不動産の権利の未定】

1 解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産ノ一分ニ付テ有スル権利ノ動産タリ不動産タル性質ハ分割ニ於テ各利害関係人ノ受クル財産ノ性質ニ因リテ定マル*1

2 当事者ノ一方ノ選択ニ任スル動産又ハ不動産ヲ目的トスル択一債権ノ性質モ亦其弁済ニ付キ選択シタル物ノ性質ニ因リテ定マル*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

84 本条には、会社・共通に関する規定と選択契約に関する規定とが併記されています。これをそれぞれ説明します。

85 会社・共通に属する規定 前条には、会社が解散しない間社員が会社に対して有する権利の性質が示されていました。

 本条第1項は、会社が解散しまだ清算していない、つまりその財産の分配、配当をしていない間各社員が有する権利は動産か不動産かという問題に答えるものです。

 既に会社が解散した場合には、あたかも肉体人が死亡し、その後まだ遺産を相続人に分割しないように、まだ財産を分割しない間は、かつて会社に属していた動産・不動産はその各社員に共属します。その財産が動産だけの場合、不動産だけの場合には、各社員の権利は容易にこれを知ることができますが、動産・不動産が合併している場合には、どうやってこれを知ることができるのでしょうか。

 例えば、平等に権利を有するA・B2名で成立する会社があったとし、その解散後に残る財産は土地・建物・金銭・器物だったとします。これを2つに分割してA・Bに配当した場合、土地と金銭はAに帰し、建物と器物はBに帰属させるとします。A・Bの所有権はいつから始まるのでしょうか。分割の当日でしょうか、それとも会社解散の当日でしょうか。会社の解散から分割確定の日までには必ず多少の日にちを経過し、その間に権利の移転があったりするので、各自の権利の起原の日を定めることは実際には関係するところ大です。

 この問題に対する答えについては2つの考え方があり、結論が異なってきます。

 2つの考え方とは、「分与主義」と「認定主義」です。

 分与主義によれば、会社が解散すれば会社は消滅します。そのため、かつて会社に属していた財産はその社員に属します。そして、解散後は各社員が独立し、法人は消滅します。各社員は会社の残った財産を共有し、その各自の共有権はそれぞれの物に存します。つまり、上の例では、A・Bは土地を共有し、建物を共有し、金銭・器物を共有するのです。さらにこれを詳しく説明すると、A・Bそれぞれ土地の一半を有し、それぞれ建物の一半を有し、金銭・器物についてもまた同様です。そのため、分割によって土地と金銭の全部がAの配当物となり、建物と器物の全部がBの配当物となった場合には、AはBから土地・金銭の各一半を譲り受け、BはAより建物・器物の各一半を譲り受けることになります。これによりA・B各自の所有権の中の一半は会社解散の日に始まり、もう一半は分割の日に始まります。これを「分与主義」といいます。「分割によりはじめて権利を分かち与える」という意味だからです。


86 会社が存立する間は、法人である会社がその全財産を併有し、会社が解散して法人が消滅すれば社員がこれを共有し、これを分割すれば各社員がこれを分けて特有することになります。分与主義の考え方は事理では非常に当を得たものです。そのため、ローマではこの考え方が採用されたといわれています。しかし、この考え方によると実際には弊害が少なくありません。これについて説明しましょう。

 上の例で未分中(解散から分割に至るまで)に社員が自己の権利を譲渡しようとしても、その権利は財産の中のそれぞれの物の一半だけに対するもので、譲受人がいることは少ないでしょう。これが融通を妨げる弊害です。また、譲受人があっても、例えば土地の一半を譲渡しようとする場合には、総財産を分割するに当たり、その譲受人(新たに共有者となった人)も分割に関与させなければなりません。そもそも共有物の分割については常に紛議を生ずるもので、分割者が多ければ多いほど紛議も多くなります。これもまた1つの弊害です。また、Bが土地の一半に抵当権を設定しようとすると、分割によりその全部を取得した甲は後日抵当権者から負債の弁済を要求されることもあるでしょう。これを弁済した場合にはBに対して求償権を有することはもちろんですが、Bに資力がないときはAの損失となってしまいます。このような種々の弊害を避けようとしてフランスの学者が別の考え方を提唱しました。これが「認定主義」です。

 

87 認定主義という考え方は「未分中は財産各物に対する各社員の権利の性質は未定で、分割して各社員の配当物が定まった場合には、各社員が配当を受けた物に対する権利は会社解散の当日に遡って効力を有する」というものです。認定主義は、従来の権利が存することを認めるにすぎず、分割により新たにいくつかの権利を分与するのではないとします。

 この考え方によれば、上の例でAに配当された土地は会社解散の日よりBの所有に属し、たとえBがこれに抵当権を設定し、そのほかBが何らかの権利をそれに設定したとしても、すべて無効となります。自分の所有権を有しない物には何らの権利をも設定することはできないからです。認定主義は、事理では穏当ではありませんが、実際には弊害がないだけでなく、分与主義の弊害を避けることができます。そのため、フランスでもこの考え方を民法に規定し、日本民法もまたこれによることとしました。そのため、本条第1項で会社の解散後まだ分割をしていない間は各社員の権利の性質は未定であることが示されています。そして、一度分割すれば動産を配当された社員は分割の当日これを配当されたのではなく、解散の当日からこれを有したものとみなします。そのため、未分中に社員が死亡し、その遺産の動産と不動産とにつき相続人が異なる場合には、分割の日にならなければ相続人の相続する財産を知ることはできません。

 以上、専ら会社が解散した場合について説明しました。肉体人が死亡し数人の相続人があって遺産をその間で分割した場合や、共通団体が解散して共通物を分割する場合にもまた同一の考え方によります。


88 選択契約に関する規定 一般に授受の契約でははじめから授受する物品を定めるのが通常です。しかし、契約者の便宜によりこれを定めないこともあります。例えば、建物か動産物品のどちらかの中から与えることを約することもあります。そして、そのどちらかの1つを選択する権利が譲渡人に属する場合もあれば、譲受人に属する場合もあります。これは契約によって定まるのが普通です。この例では、その物の譲受けを約した者つまり債権者の権利の性質は動産でしょうか、それとも不動産でしょうか。本条第2項はこれに「選択権を有する者が選択する際、その選択した物の性質によってはじめて定まる」と答えています。そのため、まだ選択をしない間は、会社の場合のように、債権の性質は未定です。

 選択し、いったん目的物が定まると、債権者の権利は既往に遡って効力を生ずることは、認定主義の考え方の通りです(第409条第435条参照)。

 選択契約には2種類あります。1つを「選択」といい、もう1つを「任意」といいます。選択契約では当事者の一方が目的物の中から1つを選択する権利を有するので、その目的物の中でどれを主とし、どれを従とするとの区別はありません。任意契約では、一定の物を主として負担する債務者が都合により他の物を与えて義務を免れることができます。その負担物には主従の区別があり、一定の物を主とし、都合によって与える物を従とします。本条に択一とあるのは選択のことです。任意の債権でははじめから目的物が一定しているので、その権利の性質もまた一定しています。第428条第436条にこの2種類の区別を掲げられています。

 動産・不動産に関する規定は以上です。

*1:1 解散した会社又は清算中である共通に帰属する財産の一部について有する権利が動産又は不動産いずれの性質を有するかは、分割によって各利害関係人が受ける財産の性質によって定まるものとする。

*2:2 当事者の一方が選択する動産又は不動産を目的とする択一債権の性質も、その弁済につき選択した物の性質によって定まるものとする。