【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第46条【用益権の設定②】

1 用益権ハ動産ト不動産ト有体物ト無体物トヲ問ハス一切ノ融通物ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得*1

 

2 又用益権ハ他ノ用益権ノ上、終身年金権ノ上又ハ包括権原ニテ資産ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

224 本条によれば、融通物(第26条)である財産には、種類を問わず、その上に用益権を設定することができます。そのため、すべての不融通物に用益権を設定することができません。

 用益権と終身年金権はもとより融通物で、第1項の中に包含されるものです。そのため、さらに第2項でこれを明言する必要はありません。この種の権利に用益権を設定することができるかどうかということに疑いが生ずることを恐れて特に明言したものです(215[略]参照)。

 

225 終身年金権に言及して無期年金権に言及しないのはなぜでしょうか。

 終身年金権の年金は、利息だけでなく、これに元金の一部を加えたものです。詳しくは財産取得編第171条以下で説明しますが、ここでその概要を述べておかなければ、本条の意味はわかりにくいものとなってしまいます。

終身年金権の設定は一種の射倖契約です。例えば、老後に働かずに生活することができる資産を有しない者が、その資産の全所有権を他人に与え、その報酬として老後のある年齢から死亡するまでに若干の年金を取得することを約します。年金権者の死亡後はその資産は完全に年金支払人の所有となるので、年金支払人は通常の利息の割合よりは高額の利息を支払うことを約束するのがふつうです。つまり、支払人は普通の利息のほかに元金のいくらかを加えて支払うわけです。年金権者が死亡すれば、支払人は利益を得ることになるので、これは「射倖契約」だといわれます。

終身年金権の性質はこうしたものなので、年金権者は、利息を収取するだけでなく、元金のいくらかを受け取ることになります。用益権者は、用益物についてその収益だけを収取する権利を有し、その元本を収取することができないのが原則です。終身年金権に用益権を設定し、用益者がその年金を収取するとすれば、用益者は利息のほかに元本のいくらかを収取することになり、用益権の原則に反することになります。このことから、フランスの民法を論ずる者の中には、「終身年金権の用益者は、年金の全額を収取することができず、その年金から生ずる利息だけを収取する権利を有する」と述べる者もいます。日本民法は、こうした疑念を生じさせないために、特に終身年金権にも用益権を設定することができるという明文を置いたわけです。

無期の年金権は、終身年金権のように射倖の性質を帯びず、その年金には元本が含まれません。そのため、その上に用益権を設定することができることは当然で、特にこれを明言する必要はありません。

 

226 「包括名義で資産の上に用益権を設定することができる」とは、1人の所有に属する財産の全部または一部に用益権を設定するという意味で、包括の中には動産・不動産、有体・無体の財産が含まれますが、これらを区別せずに用益権を設定する場合をいいます。例えば、資産全部、その3分の1、動産の全部、不動産の全部に用益権を設定するような場合です(包括については第6条第16条で詳しく説明しました)。

 

227 本条は、用益権にさらに用益権を設定することができるとしますが、設定できない場合もあります。使用権と住居権は用益権の一種で、これらの権利は譲渡することができないものです。そのため、その上には用益権を設定することができないことは明らかです(第110条以下参照)。

 地役権は、これを要役地から分離した場合には譲渡することができないものとなり、その上に用益権を設定することはできません。このほか開坑の特許その他の特権、例えば鉄砲売買の免許のような受許人の人物身代など種々の条件を特許の目的としたものは、譲渡することができない物であり、その上に用益権を設定することができません(本編第29条・財産取得編第175条参照)。

 フランスの民法では、嫁資財産を譲渡してはならないものとしています。日本民法でもこれを譲渡してはならないものとすれば、単に合意によってはこれらの財産には用益権を設定することができないことは当然です。もっとも、時効による場合には用益権が発生することがあります。

 

228 用益権は、これを設定する財産の性質が異なる場合には、その権利もまた異なるものとなります。つまり、有体不動産・消耗物・活動物のように物の性質が異なる場合には、規則もまた異なるものとなります。以下でこれを説明します。

*1:用益権は、動産又は不動産、有体物又は無体物のいずれであるかを問わず、一切の融通物の上に設定することができる。

*2:用益権は、他の用益権の上、終身年金権の上又は包括権原で資産の上に設定することができる。