【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第37条【共有物の使用等】

1 数人一物ヲ共有スルトキハ持分ノ均不均ニ拘ハラス各共有者其物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但其用方ニ従ヒ、且、他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサルコトヲ要ス*1

 

2 各共有者ノ持分ハ之ヲ相均シキモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス*2

 

3 天然又ハ法定ノ果実及ヒ産出物ハ各共有者ノ権利ノ限度ニ応シ定期ニ於テ之ヲ分割ス*3

 

4 各共有者ハ其物ノ保存ニ必要ナル管理其他ノ行為ヲ為スコトヲ得*4

 

5 各共有者ハ其持分ニ応シテ諸般ノ負担ニ任ス*5

 

6 右規定ハ使用、収益又ハ管理ヲ格別ニ定ムル合意ヲ妨ケス*6

 

【現行民法典対応規定】

本条1項

249条1項 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

本条2項 

250条 各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

本条4項

252条1項 共有物の管理に関する事項(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

252条5項 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

本条5項

253条1項 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

180 本条以下第40条まで、共有の所有権に関する規定が置かれています。ここではまず共有の概要を説明し、次の本条の説明をすることにします。

 共有所有権とは、数人で1つの物を所有するという意味です。例えば、数人の相続人が1人の死亡者の遺産を相続した場合、会社が解散してその財産が数人の社員に属する場合、数人が合意して1つの物を購入した場合のように、その物を分割しない間はその所有権は共有となります。

 ところで、会社が財産を有する場合には、それは数人の社員に属するものです。この場合にもまた共有として本編第37条以下の規定に従うのでしょうか。会社の財産もまた第39条の適用を受けるとすれば、十数年かけて事業を起こすために会社を設立することはできなくなります。社員の1人が分割を請求すれば、会社はそれにより解散しなければならなくなるからです。

 通常の共有と会社とは同様に扱うことはできません。その違いを説明しましょう。

 会社には2種類あります。民事会社と商事会社です。

 民事会社は民法の規定により、商事会社は商法の規定により成立します。民法財産取得編第121条では、会社を「会社は、数人が各自に配当すべき利益を収める目的である物を共通して利用するため、又はある事業をし、若しくはある職業を営むため、各社員が定められた出資を行い、又はこれを諾約する契約である」と定義しています。

 そのため、会社が成立するには、第1に各社員が出資を行うこと、第2に利益を収めることを目的とすることという2つの条件を具備しなければなりません。ここで利益というのは、金銭に評価することができる利益をいいます。要するに、営利目的で各社員が出資するのでなければ、民法にいう会社ではないということです。

 商法第66条には、会社の定義をせずに、単に「商事会社は共同して商業を営むためにのみこれを設立することができる」とあります。「商業を営む」とは、営利という意味です。また、商事会社の定義は、民法の会社の定義に従います。そのため、民事商事ともに会社は必ず営利目的を有するものです。営利を目的とせずに組合をするものは、民法と商法にいう会社ではありません。また、民法・商法のほかに会社の設立を規定する法律はありません。会社と称するものは、営利目的を有するものに限られるわけです。

 共有は、数人が1つの物にともに所有権を有するという意味で、必ずしもその物について金銭上の収益を行うことを目的とするものではありません。前の事例で示したように、数人がともに相続人となる場合、合意により1つの物を購入した場合で、単に数人が1つの物の上に権利を有するという状況です。

 以上の説明で、会社と通常の共有との区別は明らかでしょう。

 ここで上の問題に対して答えを出しておきましょう。そもそも会社に属する財産は、民法や商法の会社の章の規定の適用を受け、通常の共有に属する財産は、本条以下の規定の適用を受けます。それぞれ適用を受ける規定が違いますので、互いに混雑することはありません。

 例えば、数名が共同して設立した学校は、その建物敷地の所有は共同した数人の共有に属し、会社の規定の適用を受けません。そのため、その共有者はいつでも以下の第39条によって分割を請求することができます。

 また、財産取得編不分物の章第110条に「不分財産を分割するに当たり、共有者の1人が現物の分割を拒むときは、その財産の協議売却又は競売を行う」とあります。同章第111条には、共有者の1人又は他人に売却するにつき一致することができないときは、競売すべきことを定め、共有者の各自は他人に競売させることを要求することができるという規定があります。これらの条項は、すべて本条以下に掲げる共有の場合に適用されるものです。

 そのため、学校のような十数年を目的とする事業のために数人が共同して財産を所有する場合に、共同者の中に悪意の者があり、その事業を妨害しようとするときは、財産の分割を請求することができます。また、たとえ本人は悪意でなくともその債権者がある場合には、債権の弁済を得ようとして財産の分割を要求することがあるでしょう。このような場合のために、西洋ではまだ法律を設けていません。わが国でも立法上何の明文もありません。実際まだこの種の困難がないからでしょう。

 共有には3種類あります。第1は普通の共有、第2は特別の共有、第3は変例の共有です。

 第37条から第39条のはじめ3項には普通共有の規定、第39条の末項には特別共有の規定、第40条には変例共有の規定が掲げられています。

 

181 (A)普通共有に属する第1の規定が本条です。ここに含まれる項目を細別すると、第1に持分、第2に使用、第3に収益、第4に管理、第5に負担です。この項目について個別に解説しましょう。

 

182 ① 持分 持分とは、権利の持分をいいます。つまり、共有物の価額についていうものです。

 そもそも数人で1つの物を共有する場合には、各自の持分は必ずしも均しいものではありません。しかし、法律は各自の持分を均しいものと推定します。共有者でその持分が均しいものではないと主張する者があれば、別にこれを証明することが必要です。民法がこのような推定をするのは、そもそも共有の場合には不均等の証拠がなければこれを均等と推測するほかなく、やむを得ないためだといえるでしょう。

 

183 ② 使用 使用は、所有権の中の元素の1つです(第30条参照)。

 そもそも物を使用するには、その全体を使用するのでなければ使用の目的を達することができないのが普通です。例えば、車に乗り、馬を使うような場合です。その車馬の一部を使用することはできません。そのため、共有者の持分の多少、均不均にかかわらず、物を使用するに当たっては必ずその全部を使用するのが普通です。

 しかし、物の性質によっては必ずしも全体の使用を必要としないものもあります。例えば、1個の家屋です。これを共有する者は、必ずしも各自その全部を使用しないこともできます。つまり、1人はA室に住み、1人はB室に住むことができます。そのほか1つの物でも数個に分別できるものは、すべてその一部を使用することができます。例えば、書籍です。

 全体を使用するのでなければ使用の目的を達することができない物品については、共有者間で時間を区別して使用します。その持分が均等でない場合には、使用時間は不同となります。

 すべて共有者が共有物を使用するには、その者の用法に従うことが必要です。例えば、乗馬を車馬に用い、乗車を荷車に用いるようなことは、その用法に従わないもので、共有者は他の共有者の承諾を得るのでなければそのような変用をすることはできません。

 共有者は、互いに権利を侵害することができません。そのため、一方の使用権を有する時や部分については、他の一方は使用することができません。

 

184 ③ 収益 収益もまた所有権の中の元素の1つです(第30条参照)。

 そもそも収益ある物を共有する場合には、その収益を共有者間に分配するのが普通です。収益をもあわせて共有物とすることは非常に稀です。そのため、ここには普通の場合を示しています。

 収益は使用と異なり、各自の持分に対応することができるものです。そのため、本条第3項は、各自の持分に応じて収益を分配するものと定めています。

 「定期」というのは、例えば田畑であれば米麦等の収穫季節に分配し、家屋の賃貸の類は毎月または毎6月のように期を定めて分配することをいいます。

 田畑のような場合には、仮にその面積を各自に分割して各自自在に収益することができます。そのため、本条末項に規定があります。

 果実とは、米麦・豆栗等の類をいい、産出物とは、鉱物・石炭の類をいいます。「天然の果実」とは米麦の類をいい、「法定の果実」とは貸金の利子の類をいいます。なお、第51条のところでこれを詳しく説明します。

 

185 ④ 管理 そもそも物は保存しなければ朽廃します。そのため、各共有者はすべてその共有物を保存する利益を有するので、保存に必要な管理をすることができます。その他の行為で保存に必要なものについてもまた同じです。

 しかし、各共有者は物の改良をすることはできません。そのため、その管理権を濫用して改良することはできません。管理権はただ保存の目的に限ってこれを行使するものだからです。

 

186 ⑤ 負担 そもそも物を保存するには必ず多少の入費が必要です。例えば、家屋の修繕をするような場合です。そのほか租税を払い、訴訟をすることをもまた保存行為で、必ず多少の資金を費やすことが必要です。そのため、共有者の各自はその持分に応じてこれら諸般の入費を分担しなければなりません。

 以上説明した規定は、共有者間に別段の合意がない場合のものです。もとより共有者は使用収益や管理について協議で自由に本条と相違する規約を定めることができます。

 そもそも各人は自由に合意をすることができますが、社会の秩序を紊乱するおそれがある場合には、その自由に合意することはできません。これが民法全部に通ずる原則です。本編第328条に「当事者は特別の合意で普通法の規定によらず、またその効力を増減することができる。ただし、公の秩序及び善良の風俗に反することができない。」と規定されています。そのため、民法各般の規定で公の秩序又は善良の風俗に関しないものは、すべて各人が合意で規約しない場合に対してだけ適用すべきものです。もっとも、公の秩序や善良の風俗に関するものは、民法の財産編以下では至って稀です。

 民法の原則はこの通りです。そのため、本条末項は必ずしもこれを掲げる必要はありません。民法の中ではこの類の条項は少なくありません。丁寧に規定する趣旨です。

*1:数人で一つの物を共有するときは、持分の均不均にかかわらず、各共有者はその物の全部を使用することができる。ただし、その用法に従い、かつ、他の共有者の使用を妨げてはならない。

*2:各共有者の持分は、相等しいものと推定する。ただし、反対の証拠があるときは、この限りでない。

*3:天然又は法定の果実及び産出物は、各共有者の権利の限度に応じ、定期に分割するものとする。

*4:各共有者は、その物の保存に必要な管理その他の行為をすることができる。

*5:各共有者は、その持分に応じて諸般の負担を負う。

*6:使用、収益又は管理を格別に定める合意は、これを妨げない。