【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第13条【法律の規定による動産】

法律ノ規定ニ因ル動産ハ左ノ如シ

第一 上ニ指定シタル動産ノ上ニ存スル物権

第二 有体動産ヲ取得シ又ハ取回セントスル債権但不動産ヲ以テ其担保ニ充ツルトキモ亦同シ

第三 所為ヲ成就セシメ又ハ権利ノ行使ヲ止メシムル債権縦令其権利カ不動産タルトキモ亦同シ

第四 法人タル会社存立ノ間社員カ其会社ニ対シテ有スル権利縦令不動産カ会社ニ属スルトキモ亦同シ

第五 著述者、技術者及ヒ発明者ノ権利*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

82 無体物である権利でも、必ずこれを動産・不動産のいずれかに属させるという考え方に基づき、本条の規定が置かれています。

 この種の動産にも「目的物によるもの」と「純粋に法律の規定によるもの」との区別があります。これは「法律の規定による不動産」の場合と同様です。

 「目的物による動産」は、「目的物による不動産」と同一の理由によるもので、さらにこれを説明することは不要でしょう。

 「純粋に法律の規定によるもの」は特にこれを動産とする必要があるわけではありません。ただこれを不動産としないので、動産としただけのことです。性質だけから論じると、すべて動産ではありませんし、不動産でもありません。

 

83 第1号 「動産の上に存する物権」とは、有体動産の所有権・用益権・使用権・賃借権・占有権・留置権・質権・先取特権です。

 

 第2号 「有体動産を取得しようとする債権」とは、例えば金銭を要求する権利がこれに当たります。たとえこの権利を担保するために不動産に抵当権を設定したり、質権を設定したりしてもその性質は変わりません。主たる債権と従たる担保権とは、その成立が異なるもので、一方の性質で他方の性質が変わってしまうことはないからです。

 本号には、有体動産を取得すること、取り返すことだけを規定しています。第3号には、人の行為に関することを規定しています。これが「無体事物」です。

 本号にいう取得・取り返す債権については、第10条第2号の説明で詳しく説明したので、そちらを参照してください。

 

 第3号 「所為を成就させる」とは「作為の義務を尽くさせる」という意味です。例えば、他人が自分に物を賃貸することを約した場合には、自分にその物を引き渡す義務を負います。そのため、自分はこれを引き渡させる権利を有します。そのほか自分に対して水をくむことを約した場合や、労力で技術を施すなどのことを約した場合も同様です。これらの権利はすべて動産です。所為の成就は「物」ではなく「事」だからです。そのため、もとより不動産ではありません。これを動産に分類するのはただ不動産とはし難いからにすぎず、別にこれを動産とする理由があってそうしているわけではありません。

 「権利の行使をやめさせる」とは、例えばある時間はあることをしてはならないと約束するようなこと、つまりある商人が他の商人に対し同じ町で同一の営業をしてはならないと約したり、俳優がAの劇場で演芸する間はBの劇場で演芸してはならないと約したりするような場合です。その約束をさせた者は、一方が約束に反して同じ町で同一の営業をした場合や、Bの劇場で演芸した場合には、これをやめさせる権利を有します。これが動産権です。また、例えば用益者がある時間は用益権を行使しないことを約するような場合もそうです。用益者はこの間収益を停止する義務を負います。この義務の履行を要求する権利は動産です。その用益権が不動産に存する場合には、その用益権は不動産ですが、これを行使しない義務を履行させる権利は動産です。不作為は「事」で、「物」ではないからです。そのため、もとより不動産ということはできません。これを動産に分類する理由は、上の「所為を請求する権利」を動産とするのとまさに同じです。

 

 第4号 会社には法人とそうでないものの区別があります。法人ではない会社では、これに属する財産は社員が直接これを共有します。そのため、普通の共有と同じで、その動産と不動産との区別は各個人の財産の区別と異なるところはありません。

 会社が法人である場合には、これに属する財産は会社がこれを所有し、その社員は直接これを所有しません。ただその利益の配当を受けるにすぎません。そのため、社員の会社に対する権利は、利益金の配当を受ける権利で、利益金は動産なので、これは動産となります。たとえその会社が不動産を有していても、社員の権利は直接それに行使されないので、不動産ではありません。

 

 第5号 著述云々の権利は第4条に掲げた権利です。この権利の目的は、出版し、製作するなどのことで、その目的は有体物ではありません。そのため、これを動産とします。その理由は、作為・不作為の義務を履行させる権利を動産とするのと同じです。

*1:法律の規定による動産とは、次に掲げるものをいう。

 一 上に指定した動産の上に存する物権

 二 有体動産を取得し又は取り返そうとする債権 不動産をその担保とするときも同様とする。

 三 所為を成就させ又は権利の行使を停止させる債権 その権利が不動産であるときも同様とする。

 四 法人である会社が存立している間社員がその会社に対して有する権利 不動産が会社に帰属するときも同様とする。

 五 著述者、技術者及び発明者の権利