【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第12条【用法による動産】

仮ニ土地ニ定著セシメタル物ハ用方ニ因ル動産タリ即チ左ノ如シ
第一 建築ノ足場及ヒ支柱
第二 建築ヲ為スノ間其用ニ備ヘタル小屋
第三 植木師及ヒ園丁カ売ル為メニ培養シ又ハ保存シタル草木
第四 取毀ツ為メニ譲渡シタル建物其他ノ工作物又ハ収去スル為メニ譲渡シタル樹木及ヒ収穫物*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

77 第9条には「用法による不動産」が掲げられ、動産を不動産とすることがあることが示されていました。本条はこれに対して不動産を動産とすることがあることを示しています。

 原案の理由書では、人の意思で動産を不動産とすることを認める以上は、人の意思で不動産を動産とすることを許してもよいとされていますが、論理的にはまさにその通りです。ただし、これを検討してみると、多少の疑念がないわけではありません(以下の論説[略]参照)。


78 第1号 建築中の足場は、一時的に仮に設けたもので、永遠または不定の期間土地に備え付けたものとは言いにくいものです。そのため、もとより「性質による不動産」ではありません。また、「用法による不動産」でもなく、動産です。

 

 第2号 「建築をする間、建築用に備えた小屋」とは、大工の仕事場の類です。これもまた前号と同一の理由から、動産です。

 

 第3号 植木師や園丁が種を蒔いて育てた草木、よそで生じたものを移植して保存した草木で、これが販売する予定のものである場合には、民法はその草木を動産とします。この種の草木は、これを永遠に土地と一体となったままのものではないことは明らかだからです。

 植木師や園丁その他の人が草木を育て、これを販売することを目的としない場合には、その草木は土地に定着したもので、動産とはなりません。通常の不動産です。

 

 第4号 建物その他の工作物、樹木・果実・穀菜・鉱石類は、すべて「性質による不動産」です。これらの物を譲渡して取り壊し、伐採し、収穫し、採掘することを目的とする場合には、すべて動産となります。これらの物は、土地に添付し、一体となることによって不動産となるので、これを土地から分離すると、その不動産としての性質を失うため、まだ分離していなくともこれを分離することを目的とすることになれば、民法はこれを不動産とするのです。

 本号に反し、建物・樹木とその敷地とを有する者が敷地だけを譲渡し、建物を取り壊し、樹木を伐採することを目的とする場合もまた、同一の理由により、建物・樹木は動産となります。

 以上4つ掲げた物は、土地に付着するという点から見れば不動産のようですが、永久にその土地に付着するものではありません。これは、動産を永久に土地に付着させて「用法による不動産」とするというのとは正反対です。そのため、これを「用法による動産」というのです。


79 本条に掲げた動産については、種々の場合を説明する必要があります。これを以下で叙述します。

 本条第1・第2・第3に掲げた物は、すべてこれを有する者の権利の中で既に動産なので、そのことにより問題が生ずることは稀ですが、第4に掲げた物はもともと「性質による不動産」で、その所有権を譲渡することにより動産となります。そのため、学者は「この種の物の譲渡は動産譲渡の規則に従うべきか、不動産譲渡の規則に従うべきか」について議論しています。

 この問題に答えようとすると、譲受人の取得した権利の性質を検討しなければなりません。

 譲受人の取得した権利は動産です。その目的とする樹木・果実の類が動産だからです。そのため、その譲渡は動産の規則に従わなければなりません。


80 その売買は当事者の間だけで効力を生ずるのでしょうか、それとも第三者に対してもまたその効力を生ずるのでしょうか。例えば、私がAから樹林地を買い受けたとします。Bは私の買受けに先立って公正証書で甲から樹木だけを買い受け、これを伐採することを目的としました。そして私のところへやってきて私に樹木の引渡しを求めています。私はその要求に応じなければならないのでしょうか。樹木の売買が第三者に対して効力を生ずるとすると、私はBの要求に応じなければなりません。

 この問題については、任意の売却と強制の売却とを区分して論ずる学者もいます(任意の売却とは自己の任意で売却する場合をいいます。つまり、普通の売買です。強制の売却とは財産の差押えを受け、強制的に売却させられる場合の類をいいます。)。

 任意の売却で樹林地を買い受けた者は、樹林だけを買い受けた者の要求に応じなくともよい権利を有するという学者もいます。

 その理由は、樹林地の買受人は土地の買受人なので、その買受けに先立ってこの土地に負担する物権に対してはもとより対抗することはできませんが、この買受人は特定名義(特定名義は包括名義に対する名称です。特定名義の取得者は特定物を取得し、包括名義の取得者は包括物を取得します。そして、特定名義の譲受人は権利だけを譲り受け、義務を譲り受けません。包括名義の譲受人は譲渡人の権利を譲り受けると同時にその義務をも相続するのを原則とします。そのため、この2種類の取得を区別することが重要です。)の譲受人で、譲渡人の義務を相続しません。樹木の買受人は土地からこれを分離する条件で動産である樹木を買い受けた者です。そのため、その土地に対しては何らの物権も取得しません。売主に対してはただ売買物を引き渡させる人権を有するにすぎません。つまり、売主には引渡しの義務があるだけで、この義務は土地の買受人には移らないので、土地及びこれに付属する物をあわせて買い受けた者は、買主が負担する売買物引渡の義務を履行する責任を負いません。

 また、たとえ動産である樹木の売買が土地の買主に対しても効力があるとしても、土地の買主は樹木を引き渡す責任を負いません。土地の買主は、その売買契約が成立すれば、本編第346条・証拠編第144条により直ちに樹木の所有権を取得することができるからです(本編第346条「所有者が1個の有体動産を2個の合意でそれぞれ2人に与えたときは、その2人の中で現に占有する者は、証書の日付が後であってもその所有者となる。ただし、その者が合意をした当時に前の合意を知らず、かつ前の合意をした者に財産を管理する責任がないことを必要とする。」。証拠編第144条「正権原かつ善意で有体動産物の占有を取得する者は、即時に時効の利益を得る」。)

 以上が任意売買の場合に関する説明です。

 また、例えば、私が、Aの私に対する負債を弁済させようとして、その所有する土地を差し押さえたとします。私の差押えに先立って、Bが確定日付を有する証書でその土地の樹木を伐採しようとしました。このとき私はBの要求に応じなければならないのでしょうか。これがいわゆる強制売買の場合です。

 この問題については、債権者が抵当権を有するかどうかによって結論が変わってきます。

 債権者がその土地について抵当権を有しない場合には、Bの要求に応じなければなりません。そもそも債権者が抵当権を有することなく債務者の財産を差し押さえた場合には、債務者の権利を行使したもので(第339条参照)、差押えをした債権者は債務者の代理人というべきです。代理人は委任者の権利以外の権利を有しないことはもちろんで、上に述べた特定財産の譲受人と同じではありません。樹木を譲渡した債務者はこれを伐採させる義務を負います。そのため、その代理人の資格を有する差押人は譲渡人の義務を履行し、樹木を引き渡さなければなりません。

 債権者がその差し押さえた土地につき抵当権を有する場合にも、債務者は担保編第208条によりその果実・産出物を売却することができるので、これを買い受けた者は差押人との関係でこれを収去することができます。しかし、債務者が果実や産出物ではなく土地に合体したものを売却した場合には、抵当権者はこれを合わせて差し押さえ、その買主による収去を許さないことも可能です。この場合には、債権者は抵当権という物権を有するのに対し、買主はただ人権だけを有するにすぎず、債権者の物権を害することができないからです。

 しかし、買主が差押えに先立って既に買受物品を収去した場合には、債権者はこれに対して回復の追及権を有しません(担保編第207条参照)

 

81 略(論説)

*1:仮に土地に定着させた物は、用法による動産とし、次に掲げるものをいう。

 一 建築の足場及び支柱

 二 建築する間そのために備え付けた小屋

 三 植木師及び園丁が売却するために培養し又は保存した草木

 四 取り壊すために譲渡した建物その他の工作物又は収去するために譲渡した樹木及び収穫物