【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第10条【法律の規定による不動産】

法律ノ規定ニ因ル不動産ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル不動産ノ上ニ存スル物権
第二 不動産ノ上ニ存スル物権ヲ取得セントシ又ハ取回セントスル人権
第三 建築師ノ材料ヲ以テ建物ヲ築造セシムル債権
第四 動産債権ニシテ法律カ不動産ト為シ又ハ各人カ法律ノ規定ニ依リテ不動産ト為シタルモノ*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

70 物の動・不動の区別は、有体物についてのものです。本条に掲げた権利のような無体物は、もともと形のない物で、これを動かすことのできるものとそうでないものとに分別することはできません。そのため、これに動産・不動産の名称を付与することはできません。にもかかわらず、法律があえてこれを動産・不動産に区別する理由はどこにあるのでしょうか。

 法律は財産を動産と不動産の2種類に区別し、そのほかの動産でもなく不動産でもない物を認めていません。西洋でもまたそうです。そのため、権利の性質によっては動・不動の区別をすることはできないのですが、この2種類のどちらにも属さない、というわけにはいかないのです。

 財産を動産・不動産の2種類に限る理由はどこにあるのでしょうか。

 動産・不動産の区別が必要であることは既に説明しました。その授受の際には取扱いが異なりますし、そのためこれに関する権利・義務も異なってきます。さらにこれにもう1種類の財産を加えて3種類とし、それぞれその規定を別にすれば、いたずらに法律が複雑なものとなり、その不便さがひどくなります。このように細かく区別せずとも必要に応じて無体物について特に規定を置けば十分です。また、古くから財産を区別してきた者は、動産と不動産の2種類に限っていました。これが、動・不動のほかにさらに1種類の財産を設けない理由です。

 

71 本条に示した事例に沿って見ていくと、「法律の規定による不動産」には2種あります。「目的物の性質による不動産」と「純粋に法律の規定により不動産となるもの」です。

 「目的物の性質による不動産」とは、「権利の目的物が不動産である場合には、その権利を不動産とする」という意味です。「純粋に法律の規定により不動産となるもの」とは、性質によれば動産でも不動産でもなく、第13条の規定によればかえって純粋に動産であるものを法律が特に命じて不動産としたものです。

 この2種類の区別については、西洋の学者が説明しています。日本民法は、これを本条の中に併記しました。

 また、「目的物の性質による不動産」には、「目的物と権利とが直接に関係するもの」、「目的物と権利とが間接的に関係するもの」があります。さらに、後者の中には「目的物が現に存在しているもの」と「将来生ずるもの」との区別があります。日本民法はこれらを区別していませんが、学者がこれを論じていますので、以下で説明します。


72 第1号 上に列記した不動産とは、第8条第9条に掲げた土地・建物その他これに付属する種々の不動産です。これらの不動産に存する物権とは、第2条に列記した物権ですが、その14種の中の動産質権は決して不動産となりません。また、住居権・永借権・地上権・地役権・不動産質権・抵当権はすべて不動産で、決して動産とはなりません。そのほか所有権・用益権・使用権・賃借権・占有権・留置権先取特権の7種類には、動産に行使されるものと不動産に行使されるものがあります。本号で指すのは、不動産に行使されるものに限ります。

 本号には、「目的物の性質による不動産」で「権利と目的物とが直接に関係するもの」の例が示されています(上の物権の説明参照)。

 

 第2号 本号は、「物権を取得し又はこれを取り返そうとする」2つの事例を示しています。

 「取得」とは「自分がまだ有していないものを新たに得る」という意味です。「取回す」とは「既に有しているが今は他人の手にあるものを取り戻す」という意味です。

 「不動産の上に存する物権」とは、前号に掲げたものです。「これを取得する人権」とは、例えばAがBに対し土地X坪の所有権を譲渡することを約束したが、その引き渡す地所が未定であるような場合です。この場合にその地所を指定すると、第332条の規定により所有権は直ちに譲受人に移転して物権を取得することになります。まだこれを指定しない間は、譲受人は譲渡人に対しこれを指定させる人権を有するにとどまります。しかし、この人権は結果的に不動産となるので、この人権を不動産の部に入れたのです。

 このほか不動産を売買する予約や不動産を賃貸借する予約をした場合には、売ると約し、貸すと約した者には、売る義務、貸す義務がそれぞれ生じます。買うと約し、借りると約した者には、買う権利、借りる権利が生じます。そして、買主は所有権を取得し、借主は賃借権を取得します。このように所有権や賃借権を取得しようとする権利とは、物権を取得しようとする人権のことです。この人権もまた、目的物が不動産である場合には、同じく不動産となるのです。

 「不動産物権を取り返そうとする権利」とは、例えば、土地・家屋のように不動産を賃貸した者が、後にその貸した物の返還を請求する権利をいいます。

 賃貸人はその賃貸物を取り戻すにつき2種類の訴権を有します。1つは物上訴権で、もう1つは対人訴権です。物上訴権はこれを回復訴権ともいいます。取返しの訴権は対人訴権で、回復訴権とは異なります。これを混同してはなりません。賃貸人はその随意にこの両種の訴権、つまり回復の訴権や取戻しの訴権を行使することができます。第143条にその明文があります。ここにいう「取り返そうとする人権」とは、第143条に対人訴権とされているものです。このほかにも不動産物権を取り返そうとする場合はたくさんあります。例えば、不動産の質権者や不動産の用益者のようにある時期に不動産を返還する義務を負う者がその義務を履行しない場合には、所有者は第143条にいう両種の訴権のいずれも自由に行使することができます。この両種の訴権を行使するには利害得失がありますが、これについては第143条で説明します。

 本号には、「目的物の性質による不動産」で「目的物と権利とが間接的に関係するもの」で、その目的物が現に存する例が示されています。

 

 第3号 請負人が自己の材料で建物を築造することを約した場合には、注文人は請負人に対して築造させる権利を有します。これを「人権」といいます。この権利の直接の目的は、請負人の義務で、請負人がこれを履行すれば建物ができます。つまり、不動産がこの人権の間接的な目的です。そのため、この権利を不動産としています。

 本号には、「目的物の性質による不動産」で「目的物と権利とが間接的に関係するもの」で、その目的物が将来生ずる例が示されています。

 本号については、学者の議論が多く、これを論説(略)のところで説明します。

 

 第4号 「動産である債権」とは、例えば金銭を要求する権利です。その目的物が金銭なので、そもそも動産です。そのため、第13条でこれを動産としました。法律はその中のあるものを特に不動産とすることがあります。

 日本ではまだ本号の事例に適切な制度がないので、フランスの制度でこれを説明します。

 フランスでは、国に対する債権(公債)その他フランス銀行(フランスにある銀行の名で、わが国の日本銀行のようなもの)や、ある掘割会社の株券を株主の任意で不動産とすることを認めています。かつてフランスで世襲財産の制度が行われていた時には、国債権の類を不動産とし、世襲財産としたことがありました。

 このように債権を不動産とし、これを復旧して動産とするには、種々の手続が必要です。

 一度これを不動産とした場合には、他の不動産に関する規定に従います。この類の制度はフランスだけでなく、その他の国でも設けられているといわれています。

 以上の事例は、本号に「各人が法律の規定によって不動産としたもの」というのに適切なものです。

 本号には、さらにもう1種の不動産を掲げています。つまり「法律が不動産としたもの」です。これは不動産とするかどうかを各人の意思に任せず、法律が何々の債権を不動産であると宣言するものです。

 この制度はまだ日本にはないだけでなく、フランスにもありません。その他の国にこの種の制度があるか、私は知りません。そのため、その事例を示すことは困難です。ここで仮に事例で説明するとすれば、例えば、法律で国債権を不動産と規定するような場合です。

 原案の理由書には、このように純粋に動産である債権を不動産とする目的は、ある場合にある財産を強固にするためとあります。不動産の授受には規定を設け、これに違反した授受には効力を生じさせず、その所有者を保護しようとするのです。そのため、この類の不動産は、それが不動産である理由が他の不動産の理由と大いに異なっています。これが西洋の学者がこれを別のものとして論じる理由です。

 

7475 略(論説)

*1:法律の規定による不動産とは、次に掲げるものをいう。

 一 上に列記した不動産の上に存する物権
 二 不動産の上に存する物権を取得し、又は利用する人権
 三 建築師の材料をもって建物を築造させる債権
 四 動産債権のうち法律が不動産とし、又は各人が法律の規定により不動産としたもの