所有者ハ償金ヲ得ルニ於テハ公益工事ノ便利ノ為メ所有物ノ一時ノ占拠ヲ強要セラルルコト有リ*1
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
165 鉄道の敷設、官庁や学舎の建築の類で公益に属する工事をするに当たり、その築造場に接する土地を、一時物置場としたり、ここに水を通したり、人夫を通過させたりするために使用することがあります。本条はこのような場合のために設けられたものです。
これらの場合にも、所有者は、償金を得たのであれば、その土地を使用させなければなりません。
本条には明文を掲げていませんが、別に行政法で使用の規則を定めるべきです。そうでなければ、使用の手続・償金を定める方法はどうすべきかを知ることができません。しかし、本条は、前条の収用と違い、使用の手続を簡単なものとする趣旨です。一時的な使用は急を要する場合もあるでしょうし、所有権の基本にも関係がないので、前条のような丁重さは必要がないという事情があるからです。しかし、土地収用法は収用と使用とを同一の規則で支配することとしています。その所有権を重んずる精神は非常に美しいものですが、実際には支障を来すことがあるかもしれません。収用法は制定されて日も浅く、これを実際に運用した後、改正の必要が出てくることが心配されます。
*1:所有者は、償金を得たときは、公益工事の便利のため、所有物の一時の占拠を強要されることがある。