【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第34条【所有権の制限④】

1 土地ノ所有者ハ其地上ニ一切ノ築造、栽植ヲ為シ又ハ之ヲ廃スルコトヲ得又其地下ニ一切ノ開削及ヒ採掘ヲ為スコトヲ得*1

 

2 右孰レノ場合ニ於テモ公益ノ為メ行政法ヲ以テ定メタル規則及ヒ制限ニ従フコトヲ要ス*2

 

3 此他相隣地ノ利益ノ為メ所有権ノ行使ニ付シタル制限及ヒ条件ハ地役ノ章ニ於テ之ヲ規定ス*3

 

【現行民法典対応規定】

本条1・2項

207条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

168 本条は、完全所有権を有する者についてのものです。その支分権を分離して他に譲渡した場合には、本条の規定によることはできません。

 そもそも土地の所有者が完全所有権を有する場合には、その上に家屋を築造しようと取り壊そうと、樹木を栽植しようと伐採しようと、池にしようと田にしようと畑にしようと、開削して井とし石をとるなど、その利用方法は所有者が自由に選択することができます。そのため、特に第1項・第2項の明言は必要ありませんが、第3項以下の例外があるので、本条を設けています。

 所有者が所有権を行使する方法は、これを完全に自由に選択できることは上に述べた通りですが、公益のためにする場合には、法律でこれに制限を加えることができます。例えば、市街で家屋の構造に制限を設けたり、朽廃した家屋を修繕させたりするような場合です。これはすべて火災や傾倒を予防する趣旨で、公益を目的とし、行政の範囲に属するものです。そのため、これについては行政法で規定しなければなりません。

 このほか、相隣地相互の利益のために制限を設けることがあります。例えば、隣地に接して幹の高い樹木を栽植したり、井を掘ったり、糞坑を掘ったりすることを禁じるような場合です。これらについてはすべて以下の地役の章で詳しく規定されています。

 

169 原案の本条の説明の中で、火災予防工事について2個の問題を設けてこれを論じています。地方官は新たに建築する者に対し、石・煉瓦の類を使用し、その屋根には瓦、板金の類を使用し、すべて不燃質物で築造することを命じる権限があるか、そして現在草藁や木片で葺いている屋根を改めて他の不燃質物とすることを命じる権限があるか、という問題です。これらについては、フランスの例にならい、新築の場合には地方官に命令の権限があるとし、改葺の場合にはその権限がないと答えています。

 日本の制度では、地方官はこのような権限を有しないものと思います。特に憲法施行以後は所有権を制限することはすべて法律でこれを定めることとなりました。そのため、私は原案の説明には従うべきではないと考えます。

 フランス民法552条には土地の所有権は地上・地下に及ぶとの趣旨が掲げられていますが、日本民法はこれに言及していません。ただ、本条に建築・開削をする権限があることを定めていますので、所有権が地上・地下に及ぶことは明らかです。そのため、他人の所有に属する土地の上には何らの建築をすることができません。しかし、その地下については、地表の所有権の効用はいたって薄いものですので、次条で説明されています。

*1:土地の所有者は、その地上に一切の築造、栽植をし、又は廃することができ、その地下に一切の開削及び採掘をすることができる。

*2:前項のいずれの場合においても、公益のため行政法で定めた規則及び制限に従わなければならない。

*3:相隣地の利益のため所有権の行使に付した制限及び条件は、地役の章に定める。