【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第65条【用益地における狩猟権・捕漁権】

用益者ハ用益地ニ於テ狩猟及ヒ捕漁ヲ為ス権利ヲ有ス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

286 土地の所有者がその地上で狩猟や捕漁をすることは、つまりその所有権を行使するものです。狩猟や捕漁のために土地を使用するのはもとより所有者の権利のうちのことだからです。用益者は、収益については所有者と同じ権利を有することを原則とするので、土地の用益者はその土地の上に狩猟、捕漁する権利を有することはもちろんです。

 狩猟権については、財産取得編の中の先占の章に1か条が設けられています。また、明治10年1月第11号布告の鳥獣猟規則があります。この規則は非常に不完全なものなので、早晩改正がなされることでしょう。これについては財産取得編で論じる予定です。

 

287 本条で狩猟権が用益者に属することを規定したため、日本で大きな関係を生ずることがあります。その概略を述べておきましょう。

 狩猟権は、西洋でも古くは王権の1つであったり、貴族の特権であったりするものでした。そのため「ポチエー」もこれを名誉権の1つと述べていました。そのため、平民は狩猟をすることができませんでした。古くは国王の多くがみな狩猟を好み、その威権で平民の狩猟を禁じ、その慣習が後世に多く残りました。近世では、すべてこのような特権を廃止し、公平な制度を設け、誰でも土地を所有する者はその地上で狩猟する権利を有することを認めました。ただ狩猟は公益に関係し、危険なものなので、その取締りのために特別法が設けられているにすぎません。

 日本でも狩猟に関してはそれほど西洋と異なるところはありません。そのため、維新以前には国主以下士分の者でなければ狩猟することが許されませんでした。猟師と称する者もいましたが、特許を得ることを必要とし、多少の税銀を払っていました。維新の変更とともにこれらの禁が解かれ、続いて取締法が設けられましたが、まだ狩猟権が土地所有者に属することは知られていません。誰であっても一片の銃猟免許を携帯すれば、日本国中いたるところで狩猟することができるという制度になり、その免状は官が付与するもので、官は土地所有権の一部を売って多額の免許料を収めるという情況にあります。要するに、かつては国主や士族が所有権の一部である狩猟権を蹂躙していたわけですが、維新後は国家を挙げてこの権利を蹂躙することができるものとなってしまいました。民法はこのような景況を長く続けるべきではないとして、狩猟権は所有権の中の一部だとし、本条でこれを用益者に認定したのです。そのため、民法施行以後には、他人の所有地の上ではその所有者の承諾を得て居なければ、狩猟することができないこととなりました。これが、私が狩猟について本条の規定は大きな関係を生ずるといった理由です。

*1:用益者は、用益地において狩猟及び捕漁をする権利を有する。