1 過失又ハ懈怠ノ場合ノ外用益者ハ虚有者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ大修繕ノ必要ヲ証セシメタル後虚有者其大修繕ヲ為スコトヲ拒ミタルトキハ自ラ之ヲ為スコトヲ得*1
2 用益権消滅ノ時虚有者ハ右修繕ヨリ生シタル現時ノ増価額ヲ用益者ニ弁償スル責ニ任ス*2
3 若シ虚有者カ大修繕ヲ為ストキハ用益者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ其必要及ヒ費用ヲ証セシメ用益者ハ毎年其費用ノ利息ヲ虚有者ニ弁償ス*3
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
344 前条第2項で用益者が大修繕を行う場合について規定しました。これらの場合のほか、つまり用益者がその負担を負わない場合に大修繕を必要とすることがあれば、用益者は本条第1項の手続を履行して虚有者にその修繕をすることを請求し、虚有者がこれを拒んだ場合には、自らこれをすることができます。
このように大修繕をした場合には、用益者はその費用の賠償を完全に受けることはできません。つまり、第2項の規定に従い、その修繕のために増加した価格でなお用益権消滅の時に存する額の賠償を受けるにとどまります。
修繕した後数年で用益権が消滅した場合には、その修繕のために生じた増加の全額がなお残っていることはないでしょう。その増価の全額が滅失することのほうが多いかもしれません。そのため、用益者が修繕した場合には、賠償を受けることは非常に稀でしょうし、これを受けることができたとしても少額でしょう。
これに対し、虚有者が自分の物を保存しようとしてその大修繕を行う場合には、第3項の手続を履行してこれを執行することができます。この場合には、用益者はその入費の利子を虚有者に弁償する義務を負います。これは用益者が収益を取得するという趣旨に基づく規定です。虚有者が自費で大修繕をすれば、用益物の価格が増加したり、それによって便利になったりしますが、これらの改良により生ずる利益を受けるのは用益者だからです。
用益者が大修繕としようとする場合には、その必要を証明させるだけで十分です。虚有者がこれをしようとする場合には、その必要を証明させるだけでなく、なおその費用の額をも査定・証明することが必要です。この場合には用益者に費用の利子を弁償させることができるので、その元金額を定める必要があるからです。用益者が大修繕をした場合にも、用益権の消滅時に虚有者がいくらかの費用を賠償することもあるでしょうが、この場合にはその消滅の当時に存する修繕の増価額を標準とするので、この時の評価で事を処分することができ、あらかじめ入費額を証明する必要はありません。
345 略(論説)