【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第109条【用益権消滅時の果実・産出物】

第百四条ニ掲ケタル場合ヲ除ク外用益権消滅ノ時猶ホ土地ニ付著スル果実及ヒ産出物ハ虚有者ニ属ス其栽培又ハ作業ノ費用ハ之ヲ償還スルコトヲ要セス但不動産賃借人カ果実ニ付キ既ニ得タル権利ヲ妨ケス*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

411 本条はまさに第50条と対をなすもので、用益者が収益を開始する時に付着する果実はそれが成熟すれば用益者が収取する権利を有し、そのため栽培等の費用を虚有者に償還することを要しないと定めています。その用益権が消滅する時もなお土地に付着する果実等をも用益者が収取できるとすれば、用益者は二重に財産を得て虚有者は二重の損失を受けることになり、両者の権利は大いにバランスを欠くことになります。そこで、本条には第50条と反対の規定を置き、両者のバランスをとっています。

 本条の規定は第50条と反対のものですが、実は同条を適用するものといっても失当ではありません。用益権が消滅する場合には収益する権利が虚有者に復帰するので、外観上は虚有者が用益者の資格を兼ねることになり、用益者について規定した第50条の適用を受けるとすることもできるからです。しかし、これは外観上事実上のことにすぎず、法律上は虚有者が用益権の消滅によって用益権を得るわけではないのは当然です。要するに、第50条と本条は、ともに果実は物の所有者に属するという原則を適用したものです。

 

412 第104条の場合を本条の例外としたのはほかでもありません。用益者が用益物に重大な毀損を加えるなどしたために用益権を廃罷しても、虚有者は用益者に対して毎年若干の金額・果実を支払わなければなりません。また、廃罷の年の果実・産出物についても、裁判所が定めた分割方法に従い、その若干の部分を支払わなければなりません。そのため、用益権が消滅した当時に土地に付着する果実と産出物がすべて虚有者に属するとすることはできません。これがここにこの場合の例外を示した理由です。

 

413 ここで1つ疑問があります。用益権が消滅したにもかかわらず用益者がその用益物を虚有者に返還しない場合には、用益者にその利息を払わせることができるかどうかという点です。例えば、土地に用益権を設定し、用益者がこれを他人に貸与し、毎月100円を賃料として収取していたとして、用益権消滅後もなお1か月間その土地を返還せずに賃料を収取した場合には、その100円の利息を虚有者に払う義務があるでしょうか。あるいはたとえその賃料を収取せずとも同じく利息を払う義務を免れないのでしょうか。ある学者の説によれば、遅延利息は裁判所にそれを請求するか、債務者の特別の追認を得るのでなければこれを生じさせないのが原則です。第392条はこの原則を示し、法律が当然にこの利息を生じさせる場合か法律がこの利息を生じさせることを認める場合だけを例外としています。しかし、この疑問については、法律には何らの規定もありません。そのため、用益者に当然にその利息を負担させるべきではないということになるでしょう。

 この説に対しては、第392条は債権についての規定だとの反論がなされています。債権については利息の合意をするかどうかは債権者の自由なので、利息を生じさせようとするのなら、債権者はこれを裁判所に請求するか、債務者の追認を得ることが必要なのは当然で、法律上当然に利息を生じさせるべき理由はありません。物権についてはこれと異なり、はじめから債務者も債権者もいません。そのため、第392条をこれに適用することはできません。用益者が、用益権が消滅したにもかかわらず、なおその用益物を不当に保有し、その賃料を収取しているとします。この賃料は他の果実と同じく虚有者に属すべきものです。虚有者が自らその賃料を収取しないのなら、これを使用して利息を生じさせるものとみなすのが相当です。たとえ用益者がその賃料を収取しないにせよ、その不当な保有により虚有者がこれを収取するのを妨げており、その賃料から生ずる利息を生じさせないようにしているというほかありません。そのため、いずれの場合でも、用益者は損害賠償の名義でこの利息を虚有者に支払わなければなりません。この場合は債務不履行の場合とは異なるので、第392条の制限を受けず、利息は用益権消滅の時から当然に生ずるものとすべきです。これが法理の命ずるところで、この説は妥当なものです。

 

414 第68条で用益者はその用益権を賃貸することができるものとし、その賃借権を確たるものとするために、賃借の期間等については第119条から第122条を適用すると定めました。そのため、用益権が既に消滅していても第119条に定める期間を超えない賃借権はなお虚有者に対する関係で有効に存在します。第120条に従って更新した賃借権もまた同じく有効です。そのため、用益権消滅の当時なお土地に付着している果実は当然のこと、以後収取できる果実でも一概に虚有者に属するものとすることはできません。その果実のいくらかを賃料と定めた場合にはその部分だけ虚有者に属し、ほかは賃借人に属します。金銭で賃料を定めた場合には、果実の全部が賃借人に帰属します。これが本条ただし書を置いた理由です。

*1:第104条に掲げる場合を除くほか、用益権消滅の時になお土地に付着している果実及び産出物は、虚有者に属し、その栽培又は作業の費用は、これを償還することを要しない。ただし、不動産賃借人が果実について既に取得した権利を妨げない。