【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第139条【賃貸人による履行の強制等】

賃借人借賃ヲ払ハス其他賃貸借ノ特別ナル項目又ハ条件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ対シテ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得テ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

47 賃借人が前条に規定した期日に賃料を支払わないのは、その義務に違反するものです。これには制裁が必要です。本条はこの制裁を規定したものです。

 賃借人がその義務に違反するのは、ただ賃料を支払わないということだけにとどまりません。賃貸借契約では、賃借人に保証人を立てることなどといった責任を負わせることがあったり、あることをしない義務を約したりすることがあります。こうした場合に、賃借人がすべきことをしなかったり、してはならないことをしたりしたときは、その義務に違反するので、同じく制裁を免れることはできません。

 本条には賃借人が受けるべき制裁が2つ挙げられています。「義務履行の強制」と「賃貸借の解除」です。

 ① 義務履行の強制 賃借人の義務が普通は債務者の義務と異ならないことは第118条に「賃貸借契約は有償かつ双務契約の一般の規則に従う」とあることから明らかです。そのため、賃借人がその義務を履行しない場合には、契約の一般の規則である第382条に従い、賃貸人からその履行を強制することができるのは当然です。

 ② 賃貸借の解除 前掲第118条が示すように、賃貸借契約は双務契約の規則に従います。そして、双務契約には一方の義務不履行の場合には常に解除条件を包含するものとされています(第421条)。そのため、賃貸人はこの規則に従い、解除を請求することができます。

 以上2つの制裁のうちいずれかを選択するかは賃貸人の自由です。ただし、義務の履行を強制することができない場合、つまり賃借人の身体を拘束しなければ履行させることができないような場合には、第2の制裁を用いるほかに方法はありません。

 賃貸借を解除する場合に、別に損害があるときは、なおその賠償を請求することができます。法文に「損害があるときはその賠償を得て」とあるのは、このことを示したものです。そのため、賃借物の毀損はもちろん、解除のため新たに賃借人を探す間その物を空しくそのままにしておき、そのため得ることができた利益を失った場合には、賠償を請求することができます。

 義務の履行を強制する場合にも、本条に明文はありませんが、損害があればその賠償を請求することができます。第382条第5項に「損害があるときは、その賠償をさせることを妨げない」とあり、この規則は義務の効力に関する一般の規則だからです。

*1:賃借人が、賃料を支払わず、その他賃貸借の特別な項目又は条件を履行しないときは、賃貸人は、賃借人に対して、その履行を強制することができる。賃借人に損害があるときは、その賠償を得て、賃貸借の解除を請求することができる。