【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第143条【賃貸人による訴追】

賃貸借ノ終ニ於テ賃借人カ賃借物ヲ返還セサルトキハ賃貸人ハ其選択ヲ以テ対人訴権又ハ物上訴権ニテ之ヲ訴追スルコトヲ得*1

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

53 賃借人が賃貸借の終了時にその賃借物を返還しない場合には、賃貸人はどのような訴権を行使することができるのでしょうか。これが本条の規定するところです。

 わが法律は、賃借物が動産であると不動産であるとを問わず、賃借権を物権の1つとしていますので、賃借人がその賃借物を返還しない場合には、賃貸人は物上訴権によりこれを訴追し、その賃貸物の取戻しを求めることができるのは当然です。

 しかし、賃借権は物権であるとともに人権を兼ねるものなので、賃借人は賃貸人に対してその賃借物を返還すべき義務を負います。そのため、賃貸人は対人訴権によりこれを訴追することももとより妨げありません。

 このように、賃貸人は物上訴権によって取戻しを求めても、対人訴権によって返還を求めても、ともにその権限内にあるので、法律はそのいずれを選択しても賃貸人の自由だとしています。この訴権の選択は、事情によっては大いに賃貸人の利害に関係します。物上訴権で訴追する場合には、たとえ賃借人が無資力でも賃貸人は物上訴権の効力である優先権によりその物を取り戻すことができ、しかも他の債権者と分配するような不利益を受けることがないので、物上訴権で訴追するほうが賃貸人に最も利益があるでしょう。しかし、動産の賃貸借や不動産の賃貸借については、その物の所有権を証明するが多少難しいので、賃借人に十分な資力があるような場合には、対人訴権で訴追するほうが賃貸人のために利益があるでしょう。つまり、賃貸人はこれらの利益を考えてその選択をしなければなりません。

*1:賃貸借の終了時において、賃借人が賃借物を返還しないときは、賃貸人は、その選択により、対人訴権又は物上訴権によってこれを訴追することができる。