【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第16条【特定物・定量物・集合物・包括物】

物ハ左ノ如ク之ヲ視ルコトヲ得
第一 特定物即チ某家、某田、某獣ノ如キ殊別ナル物
第二 定量物即チ金幾円、米幾石、布幾反ノ如キ数量尺度ヲ以テ算フル物
第三 聚合物即チ群畜、書庫ノ書籍、店舗ノ商品ノ如キ増減シ得ヘキ多少類似ナル物
第四 包括財産即チ相続ノ総動産若クハ総不動産又ハ相続ノ全部若クハ一分ノ如キ資産ノ全部又ハ一分ヲ組成スル物*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

92 本条は、実は物そのものを区別したものではなく、物の見立てで区別したものです。民法は、本条で4種類の見立てをしています。これを以下に説明しましょう。

 

93  「特定物」とは「特に指定した物」という意味です。例えば、何町何番地の建物、何村何番の田、何某の何色の馬と、物を指していうような場合です。このように指定した物は、この世に2つとありません。他の物とは完全に区別されます。そのため、完全に別の物といえます。これに対して、単に家1軒、馬1疋という場合には、どこの家、どこの馬かがはっきりわかりません。このように漠然としたものは、指定されていないからです。

 馬の売買をしようとして、例えば自分の乗馬で何地産何毛の馬を売るという場合には、その馬は指定されたもので、特定物です。この場合には売買契約が成立すると直ちに馬の所有権が買主に移転します。これに対して、単に奥州産馬1疋を売り、その馬は後日指定するという場合には、何の馬かわからず、ただ奥州産であることがわかるだけで、特定物ではありません。この場合には売買契約が成立しても馬の所有権は移転しません。どの馬かがわからないからです。後日その売り渡す馬を指定するのでなければ、その所有権は買主に移転しません。そのため、特定物ではないものの授受の契約は、その物を指定することにより所有権が移転します。不特定物が特定物に変じるからです。そのほかどのような品の授受についてもすべてこの例のようなものになります。そのため、特定物と不特定物との区別は、所有権を移転することに関して必要です(第331条第332条参照)。

 

94  「定量物」とは「物の数量だけを指す」という意味です。例えば、米何石・布何反を売買し、まだ引き渡す米や布を定めていないような場合です。その石数・反数だけを指すもので、まだその実物はわかりません。そのため、もちろん特定物ではありません。たとえ引き渡す米・布が目前にあっても、これを確定しない間は物品は確定しません。これが確定すると、米と布とは確定して特定物となり、直ちにその所有権が買主に移転します。これが第1号の特定物と大いに異なるところです。そのため、この区別もまた所有権の移転時期を定めるのに重要です。

 

95  「集合物」とは「物をひとまとめにして指す」という意味です。一群の獣畜、一庫の書籍というような場合です。その群獣の頭数や庫中の書冊の多寡には関係のない名称です。小間物店の雑貨というのもまた同じです。たとえ、店の中に種々の物品があっても、小間物と称するものでその店内の物品である場合には、すべてこの名称の中に含まれます。そのため、増減することがある多少類似の物ということができます。

 この区別は、授受するに当たり数量を定めるのに重要です。例えば、「書籍一庫を誰かに与える」と遺言して死亡した者がいるとすると、この遺言は一庫の書籍を集合として遺贈したものです。遺言した時から死亡に至る間に庫中の諸冊は増減することがありますが、受遺者はすべて贈遺者の死亡の時に存在したままで書籍を受け取り、その他のものを要求することはできません。

 その遺言に誰々の書籍を与える旨を明言し、署名が定められている場合には、これは特定物で、受遺者はその指定された書籍だけを受け、その書籍に欠失があれば、これを要求することができます。

 

96  包括財産とは、どれどれの物を指すのではありません。「全部あるいは全部の中の幾分を指す」という意味です。例えば、遺言に「自分の死亡後に存する動産・不動産全部をAに与える」というのは、包括財産を与えるものです。また、全部を指すのではなく、総動産・総不動産・総財産の3分の1、総動産の半分というのもまた包括財産です。その総財産・総不動産・その幾分の中には種々の特定物を包含するからです。

 そのため、包括財産は前号の「集合」と似ています。ただ、前号と異なるのは、包括財産という場合には権利だけでなく義務をも包含するという点です。例えば、死亡者が2人の遺児のうちAには総財産の3分の2を与え、Bにはその3分の1を与えた場合には、死亡者の負担する義務を3分してその2分をAが負担し、1分をBが負担します。死亡者がある田・ある家(特定物)、米何石・金何円(定量物)、書籍1庫(集合物)をAに与え、その他の総財産を2分して一半をBに与え、一半をCに与えた場合には、Aはいっさい義務を負担しません。BとCがこれを分担します。これが西洋の民法の通則です。

 この例でのAを「特定名義の相続人」といい、BとCを「包括名義の相続人」といいます。Aに与えた残余の総財産を1人に与えた場合、資産全部を1人に与えた場合には、これを「包括相続人」といいます。これがフランスの例です。日本民法では名称はつけられていませんが、以下の各条の説明のために必要な場合があるので、ここでこれを説明します。

*1:物は、以下のように分類することができる。
一 特定物 家、田、獣のように他とは異なる物
二 定量物 金銭、米、布のように数量尺度をもって数える物
三 集合物 群畜、書庫の書籍、店舗の商品のように増減しうる多少類似した物
四 包括財産 相続の総動産又は総不動産、相続の全部又は一部のように資産の全部又は一部を構成する物