【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第93条【遺言による用益権の取得】

1 遺言ニテ包括財産ノ用益権ヲ得タル者ハ其得益ノ割合ニ応シテ相続ノ債務ノ利息ヲ負担ス*1

 

2 此他相続ノ負担タル養料又ハ終身年金権ノ年金モ亦同上ノ割合ニ応シテ之ヲ負担ス*2

 

【現行民法典対応規定】

なし

 

 

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

 

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

370 本条の説明をするには、まず遺言で財産の所有権を付与する原則の大略を記述しなければなりません。

 遺言で財産を死後に他人に与えるにはいくつかの区別があります。第1は包括して与えること、第2は包括権原で与えること、第3は特定権原で与えること、この3つです。

  「包括して与える」とは、死亡者の死亡の時に存在する全財産を挙げて他人に与えるという意味です。

  「包括権原で与える」とは、死亡者の死亡の時に存在する包括財産の一部を与えるという意味です。

  「特定権原で与える」とは、死亡者の死亡の時に存在する財産を指定して与えるという意味です。この事項については、なお次条でこれを説明します(第16条参照)。

 包括で与えても死亡者に法定相続人がある場合には、相続人はその一部を取り戻すことができるので、その結果は包括権原で与える場合と同じになります。取得編第384条から第388条を参照。

 そもそも遺言により包括または包括権原で他人の財産を取得する者は、その遺贈者の財産上の権利・義務については遺贈者の身位を相続し、ただ明言して授与しようとする権利のみを取得するわけではありません。また、その義務をも担任します(その取得する限度に応ずることはもちろんです)。これは西洋の民法が定める原則で、日本民法もこれをまた採用し、取得編第390条にこれを規定しました。

 例えば、死亡者がその身代を挙げて他人に遺贈し、受贈者がこれを受諾すると、死亡者の財産上の全義務を負担しなければなりません。また、死亡者がその身代の半分を他人に遺贈した場合には、受贈者は死亡者の財産上の義務の半分を負担します。これに対し、死亡者がその遺産の中の特定の財産を指定して遺贈した場合には、これは特定権原の遺贈で、たとえその遺贈財産の総額がどれだけ大きくとも、受贈者はただその財産だけを取得し、死亡者の相続に係る債務を負担しません。ただし、遺贈の条件として特に義務を負担させるときは別です。

 以上が、遺産の完全所有権を遺贈する場合の通則です。

 

371 用益権だけを遺贈する場合にもまた、上に説明したところと同様の区別をすることができます。

 例えば、死亡者がその遺産の全部または一部の上に用益権を設定し、これを他人に遺贈することがあります。また、ただ特定の財産のみの上にこれを設定して遺贈することもあります。

 その遺産全部に設定した用益権の遺贈を受けた者は、これを「包括の用益者」といい、そのいくらかに設定した用益権の遺贈を受けた者は、これを「包括権原の用益者」といいます。つまり、本条にはこの2種類の場合が規定されているわけです。

 そもそも相続債務を負担すべき者は、民法の原則では、包括または包括権原の相続人に限られています。用益権はたとえ包括または包括権原でその権利を得ても、実は真の包括または包括権原の相続人ではありません。しかし、本条でこれを相続人とするような規定がなされています。これはフランス民法にならったものです。

 本条には、単に包括財産の用益者とありますが(原案にはこれを2種類に区別して記載していました)、これを詳しく説明すると、以下のようになります。

 遺言によって包括の用益権を取得した者は、死亡者の債務の全部に対する利息を負担し、包括権原の用益権を取得した者は、その取得部分に相応する債務の利息を負担し、その元本は虚有者がこれを負担します。ただし、取得編第385条第388条により用益権が減殺された場合には、その取得した限度に対応します。

 通常の用益者は上の数条に記載した義務のほかに負担するものはありませんが、本条に掲げる包括財産の用益者は別種のもので、さらに別種の義務を負担します。

 以上、諸条の説明で述べてきたように、用益者は収益を取得するものなので、その負担する義務もまた収益で支払うべきものに限るのを本則とします。本条の主旨もまたこの本則を適用するものにほかなりません。そもそも善良な管理人で負債を起こす者は、必ずその収益で負債の利息を支払う目的を立て、これを執行するからです。

 扶養料や終身年金は必ずしも元本を借り入れ、これより生ずる収益で支払うべきものではありませんが、他人に扶養料や終身年金を与える者は、これを元本からは支払いません。その財産より生ずる収益から支払うのがふつうです。そのため、扶養料や終身年金は負債の利息と同視すべきものです。これが本条第2項の規定の趣旨です。

 第57条では、終身年金権の用益者はその年金を収取する権利があることを定めています。本条の規定はこの条文と照応するものです。

 

372375 略(論説)

*1:遺言により包括財産の用益権を取得した者は、その得益の割合に応じて相続債務の利息を負担する。

*2:前項に定める場合のほか、相続の負担である扶養料又は終身年金権の年金も、前項に定める割合に応じてこれを負担する。