【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第18条【代替物・不代替物】

1 物ハ当事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リ同種ノ物ヲ以テ代フルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ代替物タリ不代替物タリ*1

2 定量物及ヒ一回ノ使用ニテ消費スル物ハ概シテ之ヲ当事者ノ意思ニ因ル代替物ト看做ス*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

99 「代替物」とは「代えることのできる物」という意味です。さらに詳しく言えば「その物の代わりをしても妨げない」という意味です。つまり、それとこれとの区別をする必要のない物です。

 例えば、貨幣です。自分の甕の中にある1円銀銭と、足下の甕の中の1円銀銭とは同一物で、それとこれとの区別はありません。そのため、貨幣を借用した者は、元物で返還する必要はありません。他の貨幣で返還してもかまいません。いわばそれをこれで代替することのできる物です。

 「不代替物」とは、例えば家屋です。他の家屋をこの家屋の代わりとすることはできません。そのほか乗馬・書幅の類は、それとこれとが同一物であることはないので、互いに代替することができません。


100 代替物には2種あります。「当事者の意思によるもの」と「法律の規定によるもの」です。

101 「当事者の意思による代替物」とは、例えばAが米麦や酒をBに貸与し、Bが同品位の米麦や酒で返還することを約するような場合です。Bは元品の代わりに他の米麦や酒で返還することになります。これを「代替」といいます。このような場合には、その米麦や酒を「当事者の意思による代替物」とします。Aが米麦をBに貸与し、Bがこれをその店舗を装飾することに用い、その用を終えたら返還することを約した場合には、他の米麦で返還することを望まない意思があり、当事者の間ではこれを不代替物としたことになります。そのため、定量物(前条第2号の物)の多くは代替物ですが、必ずしもそうではない場合があります。また、定量物ではなく1回の使用により消費する物もあります。例えば魚類がこれに当たり、これもまた多くは代替することができる物です。


102 「法律の規定による代替物」とは、例えばAがBに対し月々米何斗を供給することを約し、BがAに対し金銭を負担し、その地方の米市場で米の相場付である場合には、Aが供給しなければならない米、Bが払わなければならない金銭と差引勘定をすることができるようなことをいいます。つまり、米と金銭とを代替するわけです。これを「法律の規定による代替物」とします。当事者は代替する意思はありませんが、法律が代替することを規定しているからです。このように代替することを「相殺」といいます(第521条参照)。


103 第16条定量物、第17条の消費物は、その多くが代替物です。そのため、金銭・米・麦・酒・酢の類を借用した者は、同数量・同品位の物を返還して債務を免れることができます。そのため、昔の学者は、定量物・消費物・代替物を混淆させていたといわれています。

 消費物で不代替物であるものがあります。つまり、上の例に示したように、米麦の類を店舗の装飾のために貸し付け、元品で返還することを約束した場合がこれです。

 代替物で不消費物であるものがあります。同一種類の器具はすべてそうです。例えば、書籍です。同版同印刷のものは何冊あっても同種類で、代替することができます。しかし、一度の使用で消費するものではありません。

 定量物で不代替物であるものがあります。例えば、上に述べた米麦を装飾に使用する場合です。そして、代替物はすべて定量物です。


104 代替物・不代替物の区別は、債務を相殺するのに必要です(第519条参照)。

*1:物が代替物又は不代替物であるかは、当事者の意思又は法律の規定により、同種の物をもって代えることができるかどうかによって定まるものとする。

*2:定量物及び1回の使用で消費する物は、すべて当事者の意思による代替物とみなす。