【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第57条【終身年金権の用益権等】

1 終身年金権ノ用益者ハ年金権者ト同シク其年金ヲ収取スルノ権利ヲ有ス但反対ノ条件アルトキハ此限ニ在ラス*1

 

2 既ニ設定シタル用益権ニ付キ更ニ用益権ヲ得タル者ハ原用益者ニ属スル一切ノ権利ヲ行フ*2

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

265 終身年金権のことは、第46条225)で詳しく説明しました。
 終身年金は、金銭の利息だけでなく、その元本の一部も包含するため、用益者は年金の全部を収取することができないのではないかという疑問を生ずるので、本条では年金権者と同じく年金を収取することができるという明文が掲げられました。この規定は、 用益権の原則とは矛盾します(225参照)。しかし、理論からすれば、用益権設定者の意思を貫かないこともあり、計算上も非常に困難を生じるので、実際には適切ではありません。そのため、この規定を置いたのでしょう。当事者がこの規定とことなることを定めた場合には、それに従うべきことは当然です。

 

266 既定の用益権にさらに用益権を設定した場合には、第2の用益者は第1用益者と同様の権利を有することは、この規定を待つまでもなく明瞭です。この場合にも反対の条件がある場合には、もちろんその条件に従うべきことになります。

 いったん設定した用益権にさらに用益権を設定することはその用益権を譲渡するのと似ていますが、1点だけ違いがあります。その消滅の原因を異にするという点です。さらに用益権を設定した場合に、第1用益者・第2用益者のいずれかが死亡したときは、第2用益権は当然消滅します。これに対し、原用益権を譲渡した場合には、譲受人は用益者ではないので、その死亡によって用益権は消滅しません。ただ、原用益者の死亡によって消滅することがあるのみです。

 

268*3 かつてフランスには3つの説がありました。第1説によれば、用益社は一銭も年金そのものを収取することができず、ただ年金を貸殖し、これより生ずる利息のみを収取し、年金全額は用益権の消滅の時にこれを虚有者に返還しなければならないので、利息の利息でなければ収取することができない状況で、利するところが非常に少ないものでした。第2説によれば、年金の半分を虚有者に返還し、もう半分は用益者の収益とします。その半分は元金の部分としてこれを虚有者に返還するという趣旨です。第3説によれば、年金をまったく虚有者に返還せず、これを用益者の収益とするもので、この第3説はフランス民法で採用され、日本民法もまたこれを採用しました。

*1:終身年金権の用益者は、年金権者と同じく、その年金を収取する権利を有する。ただし、反対の条件があるときは、この限りでない。

*2:既に設定した用益権につき更に用益権を得た者は、原用益者に属する一切の権利を行使する。

*3:267なし