【日本民法】条文総まくり

旧民法から現行民法まで。1条ずつ追いかけます。

財産編第51条【果実②】

用益者ハ其権利ノ継続間用益物ヨリ生スル天然及ヒ法定ノ一切ノ果実ニ付キ所有者ニ同シキ権利ヲ有ス*1

 

【現行民法典対応規定】
なし

 

今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

 

243 本条の大意は、そもそも用益者は果実を収取するについては所有者と同様の権利を有するということにあります。読んで字のごとく非常に簡明なものです。しかし、本条については2、3の疑問があります。これを以下で説明しますが、まず天然果実法定果実の解説をしておきましょう。

 そもそも用益者は使用収益以外の権限を有しないので、用益物そのものについてはその一部でも自分の所有とすることはできないのが原則です。収益とは、果実を収取するという意味です。そのため、果実とそうでない物とを区別することが必要になります。この区別について詳しく説明しましょう。

 日本民法第52条で果実について規定していますが、その解説はなされていません。第54条法定果実の例が示されているだけです。ここでは果実について解説し、あわせて第54条第2項についても説明します(日本民法は事物について必ず定義解釈をすることを好みます。果実の解釈を完全なものとしないのは権衡を失するものです。)

 果実とは、ある物の生産物で、これを取ってもその元物を減損することがないものをいいます。土地から生じる米麦、牛の乳汁、羊の絨毛、貸家の家賃がこれに当たります。

 

244 果実は2種類に分けられます。「天然果実」と「法定果実」です。

 「天然果実」とは、直接に物から産生するものをいいます。米麦・草木・乳汁・絨毛がこれに当たり、果実の名称が妥当するものはこれらの種類に限られます。

 西洋の学者は、天然果実を「自然果実」と「作為果実」の2種類に分けます。「自然果実」とは、人の所為によらず自然に土地に生ずるもので、草木花実はこれに当たります。「作為果実」とは、人が栽培することによって生ずるもので、米麦・豆菽・蔬菜がこれに当たります。日本民法第52条でこの2種類があることを暗に示しています。

 獣畜の子もまた自然果実です。この種の果実は母畜の所有者に帰属し、父畜の所有者には帰属しないという点には注意すべきです。

 自然と作為との区別は法律上必要ありません。そのため、日本民法はその名称を掲げるだけで、そのためにそれぞれ異なる規定を置いていません。

 「法定果実」とは、物から生ずるものではなく、物を使用するに際して得るもので、第54条第2項にその例が挙げられています。この種のものは実は真の果実ではありません。これを定期的に得るだけです。土地を貸して賃金を得るのは、自ら土地の果実を収取せず、人にこれを収取させるためにするものなので、その賃金は真の果実に代わるものです。そのため、法律でこれを果実と定め、他の真の果実と同一の原則に従わせることにしたわけです。要するに、この種の果実は契約の義務から生ずるものです。

 果実を天然のものと法定のものとの2種類に区別するのは、民法上その取得に関してその区別が必要となるからです。これについては第52条以下で説明します。

 

245 日本民法は、別に「産出物」と称するものを掲げています。「産出物」は果実とは異なるものです。果実の多くは、毎年1回生ずるもの、数年に1回、1年に数回、必ず定期的に生ずるものです。産出物とは、その元物とはもともと一体でこれを分離してその一部を産出物とするものです。地中から掘り出した石材、大樹林で伐採した材木がこれに当たります。建物が朽ちることにより生ずる木石もまた産出物です。

 要するに、果実は2つの性質を具備しています。第1にある物をその性質や人の意思で果実を生じさせる用法に充てること、第2はその収取が定期的であることです。産出物はこの種の要件を具備していません。

 しかし、産出物にも果実となるものがあります。その臨時の性質を変じ、上に述べた2つの要件を具備する場合がそうです。例えば、林伐林の樹木、採石坑の石材です。樹林を林伐林とし、土地を採石坑とすると、人の意思で樹林や土地を木材や石材を生ずる用法に充て、これにより定期にこれを収取することができるからです。ただし、木材や石材の類は、米麦のように生産されるものではありません。これが普通の果実と大いに異なるところです。しかし、所有者・占有者の果実に対する民法上の権利を定めるに当たっては、これを普通の果実とみなし、同様の規則で支配するのがふつうです。用益者もまたおおよそ同様の規定に従います。

 本条には産出物が記載されていませんが、第37条第194条第59条第63条に産出物に関する規定が掲げられていますので、ここでこれをあわせて解説します。

 
246 略(論説)

*1:用益者は、その権利の継続の間、用益物より生ずる天然及び法定の一切の果実について、所有者と同じ権利を有する。