1 目録ニ記シタル代替物ノ評価ハ売買ニ同シキ効力ヲ有ス但反対ノ明言アルトキハ此限ニ在ラス不代替物ノ評価ハ売買ニ同シキ効力ヲ有スルコトヲ目録ニ明示スルニ非サレハ其効力ヲ有セス*1
2 有償ニテ用益権ヲ設定シタルトキハ目録及ヒ評価ノ費用ハ用益者、虚有者各其半額ヲ負担シ無償ノ場合ニ於テハ用益者之ヲ負担ス*2
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
308 「代替物」とは、米何石・布何端というように、他の同種の物品で代替することができるものをいいます。これに対し、「不代替物」は他の同種の物品で代替することができないものをいいます。この区別については第18条の説明で詳しく述べました。
用益物に米や麦酒のような代替物があり、これを目録に記載し、その代価を評定してこれを付記した場合には、民法はその物品を虚有者から用益者に売り渡したものとみなします。そのため、用益者は用益権消滅の時にその物品を返還せずにその代金を弁済する責任を負います。目録に物品の価格を評定せず、ただその品質・品位だけを記載した場合には、虚有者と用益者との間に売買があったとみなすことはできません。そもそも売買を行うには必ず代価を定めるという要件を充たす必要があるからです。この場合には、用益者は用益権消滅の時に原物と同品質・同品位の物で返還する責任を負います。しかし、この種の物は多くは原物をそのまま返還することができるものではありません。他の同種類の物で返還することになるので、用益の原則に合いません。用益権は、第44条の定義によれば、用益物の元質・本体を変ずることなく使用収益すべきものだからですが、代替物はこれを使用するに当たってはその本体を変じて消費することが多いからです(第46条参照)。
目録中で代替物の評価をしたとしても、これにより必ずしもこれが売買となるわけではありません。当事者が売買とすることを望まない場合には、その旨を明言すれば売買とはなりません。
不代替物については、代替物とはまさに相反する規定があります。たとえその評価をしても、売買とするという当事者の意思が明言されていなければ、売買とはなりません。不代替物はその原物で返還することができ、これに評価を付しても、それはその滅失・毀損等の場合のためにするものにすぎないからです。その評価によって直ちに当事者に売買する意思があると推定することはできません。これは一般の人情に基づく規定です。
不代替物については、これを評価せずとも、その形状・様体を詳細に記載すれば将来の紛争を防ぐことができます。代替物は形状を記載するよりもむしろ評価をしたほうがよほど便利です。用益物の価格を知ることができれば、虚有者にとっても用益者にとっても損害を受けるおそれがなくなるからです。
309 そもそも証書を作成するには多少の費用が必要です。その費用は当事者のどちらが負担すべきでしょうか。第333条では、「証書の費用は、有償行為については当事者双方がこれを負担し、無償行為については享益者がこれを負担する」とされています。これが証書の費用に関する民法の原則です。有償行為では、証書は当事者双方の利益のために作成し、双方が利益を得ますが、無償行為では、証書は双方のために作成しても、その行為について利益を得るのは享益者だけとなるので、この原則があるわけです。本条第2項はこの原則を適用するものにすぎません。要するに、第333条に原則を明示されているので、さらにこの第2項を設けないことも可能です。