無主物トハ何人ニモ属セスト雖モ所有権ノ目的ト為ルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ遺棄ノ物品、山野ノ鳥獣、河海ノ魚介ノ如シ*1
【現行民法典対応規定】
なし
今村和郎=亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之一』(明治23年)
※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。
122 無主物とは「誰にも属しない」という意味です。無主物には種々の区別があります。既に前条第2項で無主の物を掲げ、また本条でもこれを掲げています。前条の無主物と本条の無主物との区別については、以下で説明します。
本条の無主物は、誰の所有にも属さず、誰もがその所有権を取得することができるものです。これがこの無主物を区別する要点です。
「遺棄された物品」とは、所有者が不用として廃棄した物です。
山野や河海を自在に飛走・遊泳する鳥獣や魚介は誰にも属しません。もちろんその山野・河海の所有者にも属しません。そのため、たとえ銃猟禁止の制札がある場所で銃獲しても、これは盗みとはなりません。ただ禁を犯した責任、そのために田地に損害を加えた責任を負うだけです。無主物は誰でも先占によりこれを取得することができます(財産取得編第2条)。
このほか、海藻・珊瑚・琥珀の類も、まだ誰も拾取していないものはすべて無主物で、誰もがその所有権を取得することができます。
123 民法は所有者のない物を3種に分けています。第1に所有者のない不動産、第2は相続人がないまま死亡した者の遺産(この2つは前条にもあります)、第3が無主物です。
第1の物は、不動産に限られます。つまり、主として原野・山林などその広さが明確ではないためにその所属が定まらないものをいい、そのほか畦畔など各人に属しないものをいいます。そのため、相続人がないまま死亡した者の遺産の中にある不動産は、この第1の中には含まれません。以前から各人の所有権が定まらない不動産だけを指しているからです。
第2の物は、動産・不動産をともに含みます。相続人がないまま死亡した者の遺産を指します。すべて以前は所有者があった物です。
以上の2種類については、民法は各人にその所有権を取得することを許さず、これを国有としました。
第3の物はすべて動産です。その中には以前に所有者があった物もなかった物もあります。この種の物については、民法は各人にその所有権を取得することを認めており、財産取得編にその取得方法が掲げられています。
公共物については、次条で説明します。
*1:無主物とは、遺棄された物品、山野の鳥獣、河海の魚介のように、何人にも属しないが所有権の目的となることができるものをいう。